住宅ローン減税「1%」の妥当性
住宅ローン減税の控除期間を延長する方向で議論が進んでいるようです。
一方、水面下で財務省では1%の控除率を引き下げる検討がされています。
では、なぜ控除率の引下げの議論がされているかということを解説していきたいと思います。
住宅ローン減税とは
まず「住宅ローン減税」とは、個人が住宅ローンを利用してマイホームの取得やリフォームをする際に、一定要件のもと一定期間、所得税から控除が受けられる制度です(年末時点の住宅ローン残高の1%を10年間。)
現在は消費税が増税されたタイミング(2019年10月)で特例措置により控除期間が最長13年に延長されています。
なぜ財務省が1%の控除率を引き下げる検討をしているかというと、控除率の「1%」が高すぎるのではないか?と会計検査院より指摘があったからです。
検査院が独自に税務署に赴き、住宅ローンの現状を調査したところ、平成29年に控除の適用を開始した人のうち、1%を下回る借入金利で住宅ローンを借り入れている人の割合が約8割に上りました。
住宅ローン控除率の推移
控除率が1%になる直前の平成20年までの控除率は「0.6%」でした。
その当時の金利を見てみると変動金利の最低金利が1%弱、フラット35の金利が2.9%前後だったため、支払う金利の一部が住宅ローン控除で返ってくるというのが住宅ローン控除の本来の在り方でした。
しかし、リーマンショックがあり不況になったため、景気対策として住宅ローン控除が1%に引き上げられました。
それでも、まだ変動金利の利息が住宅ローン控除を受けて0円になるという程度でした。
その後、住宅ローン金利はどんどん下がっていき、今あるネット銀行の変動金利は0.3%代になっています。
つまり変動金利の0.3%より控除率1%のほうが大きいため、控除率>金利になり、金利を上回り、逆ザヤ状態になっています。
また、フラット35でも制度によっては1%未満の金利になることがあり、このような状態から控除率を引き下げる検討がされています。
住宅ローン減税を受けられることによって、住宅ローンを組まなくても現金でマイホームを購入できる人が、あえて住宅ローン組むケースも多くあります。
従って、金融機関としてはローンを組む人が多くなり、現金払いできる富裕層を顧客として持つことができプラスになっているようです。
ただ、元をたどれば我々の税金になるため、住宅購入者だけを贔屓しすぎた制度になっていることは否めません。
我々不動産業者からすると、マイホームを購入される方があるので恩恵を受けているかと思いますが、本来あるべき住宅ローン控除(控除率<金利)の仕組みとは違うと感じています。
コロナの影響ですぐに控除率が下げられる可能性は低いと思いますが、時期に下げられるのか、金利はどうなるのか、今後も観察していきたいと思います。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一