任意売却には売買契約書が必要・盛り込むべき内容と準備する書類を解説
任意売却は、通常の売却とは異なる特殊な性質から、契約書の内容も異なります。通常の売却との契約内容の違いを、あらかじめ把握しておきましょう。
この記事では、任意売却での売買契約書の内容と、事前に準備が必要な書類について解説します。
1.不動産の売買契約書には何が書かれるのか
まずは、一般的な不動産売買の契約書に記載される主な内容について見ていきましょう。こちらの内容は任意売却の場合もほぼ共通なので、事前に知っておくことで契約時に慌てずに済みます。
(1)対象の物件に関する情報と金額
売買対象の物件に関する情報と、売買する金額については必ず記載されます。物件の情報は、他の物件と誤認することのないよう、地番を含む所在地や地積(土地の面積)などの情報が詳しく記載されます。「どの物件を」「いくらで」売買するかを明確化した条項です。
(2)引渡し条件
対象物件をどのように引き渡すのかを規定するものです。具体的には、引き渡しを行う時期などが記載されます。そのほか、引き渡し完了前に不動産が損傷した場合の契約解除なども盛り込まれます。
(3)所有権に関する記載
所有権移転に関して、登記をいつするのか、誰が行うのかが記載されます。通常は所有権移転登記の主体は売主であり、司法書士など専門家に依頼して手続きを行うケースが多いです。
なお、所有権の移転登記は決済および引き渡しの日と同日に行うのが一般的です。
(4)契約不適合責任に関する記載
物件や設備に不備があった場合の売主の責任に関する条項です。
先述の付帯設備のほか、土地の地積が契約内容と異なる場合、白アリ被害など家に瑕疵が見つかった場合などは、契約不適合責任条項の対象となることがあります。
契約内容と相違があると、契約不適合責任に基づき、損害賠償や代金減額の請求、契約の解除などを求められます。
なお、任意売却では、契約不適合責任は免責とされることが一般的です。後程詳細を解説します。
2.任意売却で必要となる特約の設定
任意売却では、前述の一般的な条項に加え、いくつか特約を設定します。任意売却で必要な特約と、その内容を確認してみましょう。
(1)契約不適合責任の免責特約
通常の不動産売買は、設備や土地・建物の状態が契約時の合意と異なる場合、売主は買主に対して責任を負わなければなりません。
例えば、雨漏りしていた場合やシロアリに浸食されていた場合や殺人事件の現場であった場合などです。このような場合には、損害賠償の支払いや代金の一部の返還、契約解除といった対応を迫られることになります。
しかし、任意売却では、売主に経済的な余裕がないことが一般的です。契約不適合の場合も「補償したくてもできない」ことが多いため、通常、契約不適合責任は免除されます。買主を募る際は、事前に契約不適合責任免責の旨を公開し、了承できる人のみ契約に進めるようにします。
(2)債権者の同意を条件とする特約
任意売却独特の特約の一つが「債権者の同意を条件とする特約」です。大前提として、任意売却は債権者の同意がなければ売却ができないためです。
売却の依頼を受けた不動産会社は、買い手が見つかり売却価格が確定した時点で、配分案を作成して交渉を開始します。
配分案とは、各債権者に対し、売却代金から捻出する経費や返済に充てる額の割合を示すものです。債権者に配分案を了承してもらわなければ、売却はできません。
配分案を基にした交渉に失敗すると、買い手が見つかっている場合でも売却は不可となります。この事態に備え、「債権者の同意を条件とする特約」をします。
(3)公簿売買に関する特約
公簿売買に関する特約も、任意売却物件の契約には欠かせません。公簿売買を簡単に説明すると「現況の地積より登記の地積を優先して価格を確定する売買」のことです。
土地の売買においては、面積あたり〇万円、という形で価格を決定することが多いです。
そのため、登記の地積と現況の地積が異なる場合、測量し直して価格を確定させる必要があります。
しかし、任意売却では、不動産の売却価格は債権者の同意を得た時点で確定となります。その後、実測値と登記情報の地積が異なることが判明しても、価格を変更するのは難しいのです。
こういったトラブルを予防するために、事前に「公簿の地積に従って価格を算出し、現況の地積が異なる場合も価格は変更しない」旨の特約を設けておきます。これが公簿売買の特約です。
(4)境界を非明示とする特約
通常の売却では、境界を明示します。土地家屋調査士に依頼し、境界を決定し、境界鋲を設置して隣地との境界を確定させます。
その上で売却する場合がほとんどです。境界紛争などがある場合には、大きく価値が落ちるからです。
しかし、任意売却では、境界を確定、明示することはありません。土地家屋調査士に依頼する経済的な余裕と時間的余裕がないためです。
(5)動産撤去は買主負担
家財道具や衣類などの動産は、通常の売却であれば全て撤去して明け渡します。
備付の家具以外は通常ゴミとして扱うため、売主にて撤去するのが原則となっているからです。
しかし、任意売却の場合には、引っ越しの経済的余裕がなく必要なものだけ搬出するしかない場合がほとんどです。後から撤去してほしいと言われても無理な要望となります。そこで、契約書上で初めから動産撤去は買主負担にて実施する旨明記します。
3.任意売却の契約書は誰が用意するのか
任意売却では、契約書は仲介を行う不動産会社が作成するのが通例となっています。そのため、売主が自分で契約書を用意する必要はありません。
契約書の内容に関しては、署名押印する前に不動産会社の担当者から説明してもらえます。希望や事前に伝えた条件が盛り込まれているかしっかり確認しましょう。
4.任意売却までに売主が用意する書類と入手方法
不動産売買には、事前に用意しなければならない書類がいくつか存在します。中には取得や捜索に時間を要するものもあるため、任意売却の準備段階で早めに集めていきましょう。具体的な必要書類と、入手方法について説明します。
(1)身分証明書
売主の身分を証明する書類が必要です。顔写真入りの身分証明書なら1つで大丈夫です。例えば、運転免許証やパスポートなどです。それ以外の顔写真の入っていない身分証明書なら2つ必要となります。例えば、保険証の場合には、健康保険証と介護保険証などです。
(2)登記識別情報(登記済権利証)
登記識別情報は、新たに不動産の名義人となった際に受け取れる12桁の記号番号です。名義変更の際に必要となるため、あらかじめ確認しておいてください。なお、古い不動産の場合は、登記識別情報ではなく「登記済み権利証」(いわゆる権利書)が発行されています。
登記識別情報は紛失しても再発行できません。そのため、紛失した場合は、資格者代理人による本人確認情報の提供など、代替手段を用いて本人確認を行うことになります。その場合には、司法書士の先生に支払う金額がアップしますので、気を付けましょう。
(3)固定資産評価証明書
固定資産評価証明書は、売買対象の不動産が、固定資産税の課税対象としていくらで評価されているかを証明する書類です。こちらも不動産会社に売却を依頼する際に必要となります。もっとも、不動産会社が売主より委任状をもらって取得する場合がほとんどです。売主が自分で準備することはほぼありません。
固定資産税評価証明書は、市役所の税関連担当課か、東京都内の場合は都税事務所で発行してもらえます。自治体によってはコンビニで発行を受けられることもあります。
(4)印鑑登録証明書
印鑑が証明者本人のものであることを証明するための書類です。そもそも印鑑登録をしていない場合は交付を受けることができません。まずは印鑑を用意し、印影を登録するところからはじめてください。
印鑑登録証明書は、市役所の市民課などで取得できます。自治体によってはコンビニで交付を受けることが可能です。
(5)管理規約書・修繕積立金・管理費の明細(マンションのみ)
売買する不動産がマンションの場合、買主に管理規約・修繕積立金・管理費の明細を共有する必要があります。そのため、事前に用意しておきましょう。管理組合や管理会社から交付されているはずですので、自宅を探してみてください。
もっとも、これらの資料は不動産会社が集めるのが通例ですので、ない場合には不動産会社に依頼して集めてもらいましょう。
5.まとめ
任意売却は、通常の売却と比べて勝手が異なる部分が多く、その違いは契約内容にも現れます。
戸惑う部分も多いかもしれませんが、契約時に慌てないよう、違いをしっかりと把握しておきたいところです。
任意売却は、通常の不動産売却と比較して専門知識が必要な要素が多く、経験豊富な不動産会社の助けが不可欠です。相談先の会社を選ぶ際は「任意売却の実績があるか」を必ずチェックしましょう。
当社は、住宅ローンの返済が困難な方に向けて、任意売却をはじめとしたさまざまな方法で解決策を模索し、生活再建の支援をしている不動産会社です。過去の3,000件以上の相談実績を武器に、依頼者様を丁寧にサポート致します。
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クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一