リースバックと賃貸の違いは?判断基準と利用時の注意点
「家に住みながら資金調達ができる手段」として、リースバックは近年注目を浴びています。
リースバックは賃貸との共通点が多く、「違いがわかりにくい」「どちらを選べばよいかわからない」という方も少なくありません。
そこでこの記事では、リースバックと賃貸の違いについて詳しく解説します。
1.リースバックとは?
リースバックは、売却と賃貸が一つになった契約のことです。家を売却した後、新たな所有者から売却した家を借り、売却後も住み続けます。
リースバック契約では、貸主(買主)は家を投資用の不動産として購入するため、家賃と売却価格を決定する際は、利回り(購入価格に対する年間賃料の割合)が大きく影響します。一般的には10%前後を基準とする投資家が多く、売却価格と賃料は比例します。
(1)リースバックでは家に住み続けることができる
リースバックの最大の特徴の一つが、売却後も住み続けられる点です。通常の売却の場合、家を売却した後は居住者も変わることが一般的なため、この点はリースバックならではの利点といえます。
「まとまったお金が必要だけど家に愛着がある」「子供の学区が変わるため卒業までは引っ越したくない」などという場合にメリットが大きい売却方法です。
(2)売却価格は相場より安いことが多い
前述した通り、リースバック物件は買主にとっては投資用の物件です。そのため、売却価格は一般的な不動産市場の相場より安くなることが多いです。価格だけを単純に比較すると、「損をした」と感じる人も少なくありません。
ただし、売却価格の低さは、その分、低い家賃でリースバックができることにつながるため、一概にデメリットとはいえません。価格や家賃、家族の状況なども考慮して、最適な売却方法を比較・検討することが大切です。
2.リースバックと通常の賃貸の違い
リースバックと通常の賃貸では、どのような点に違いが現れるのでしょうか。5つのポイントについて説明します。
(1)原状回復義務は発生しないことが多い
通常の賃貸契約では、退去の際に原状回復義務が生じることが一般的です。原状回復は、簡単にいうと「借りる前の状態に戻す」ことであり、物件の損耗が激しい場合は貸主の負担で修繕を行います。
ただし、リースバック契約後に退去する際は、原状回復義務は多くの場合発生しません。というのも、リースバック物件は借主が賃貸借契約の締結前から住んでいる家です。そのため、貸主(買主)自身が、戻すべき「原状」を把握できないのです。
(2)設備の修繕は借主の負担
リースバックの居住中、多くのケースで自宅や設備の修繕は借主の負担となります。貸主は設備の損耗や住宅の劣化の状況を把握しきれないため、元所有者である借主の負担となるのです。
一般的な賃貸では、設備や建物に問題が発生した場合、オーナー負担で修理するのが通例なので、この点もリースバックとは異なります。
(3)賃料は相場より売却価格に左右される
先ほども少し触れましたが、リースバックの賃料は、相場より売却価格に左右されることが多いです。そのため、エリアの賃料相場より高めの家賃になるケースもあります。
家賃相場も全く考慮されないわけではありませんが、買主となる投資家にとって重要なのはあくまで利回りです。また、投資家は買い取った家の売却で利益を出すことを最初から視野に入れているため、必ずしも長く住んでもらう必要はありません。このような理由から、やや強気の家賃を提示されることもあります。
(4)契約後の家賃の交渉は難しい
通常の賃貸であれば、賃料相場の変動などを理由に家賃の値下げ交渉ができることがあります。しかし、リースバック契約の場合、そのような交渉は難しいです。
買主である投資家は、家を購入する時点で売却を見込んだ価格設定にしているため、必ずしも家に長く住んでもらう必要はありません。借主が賃料を払えなくなって退去するなら、物件を売却して利益を出せばよいのです。
こうした事情から、賃料の交渉に対してはかなり強気で対応される可能性が高く、値下げは難しいでしょう。
(5)居住期間が短いことがある
通常の賃貸借契約では、2年から3年に一度の更新を繰り返しながら長期居住する「普通借家契約」が採用されることが多いです。普通借家契約では、借主の自由意思と、貸主のやむを得ない事情でのみ解除でき、借主が手厚く保護されています。
リースバックでも普通借家契約が可能なケースもありますが、更新を前提としない「定期借家契約」も広く採用されています。定期借家契約の場合、2年から3年の契約期間が終了すると、原則として更新はありません。そのため、長く住みたい場合は不向きです。
定期借家契約でも再契約を前提としているケースもありますが、普通借家契約とは違い、更新が保証されていない点に注意が必要です。
3.リースバックと賃貸で迷ったときの判断基準
リースバックと賃貸で迷った場合、何を基準に契約形態を判断すればよいでしょうか。整理すべきポイントについて説明します。
(1)家賃はいくらまで負担できるか
自分の普段の生活から考えて、毎月の家賃をどの程度負担できるか考えてみましょう。リースバックの家賃は売却価格に比例するため、家を高く売ると、家賃もその分高くなってしまいます。
賃貸住宅であれば、売却価格と賃料に相関関係はありません。うまくいけば「高く売り、安く住む」ことも可能です。
(2)居住期間はどの程度を見込んでいるか
物件に何年住み続けたいかという点も、基準の一つです。前述した通り、リースバックでは定期借家契約による賃借も多く、その場合は2年から3年程度で退去しなければなりません。普通借家契約でのリースバックも可能ですが、定期借家契約を選ぶ場合と比べると家賃は割高となります。
住みたい期間が決まっているのであればリースバックがおすすめですが、長く住みたい場合は賃貸も検討してみましょう。定期借家契約の賃料の割り増しも考慮しつつ、無理のない生活が可能か考慮する必要があります。
(3)家を買い戻す予定があるか
将来的に家を買い戻すことを希望しているなら、リースバックでの契約をおすすめします。リースバックでは、契約書に「再売買の予約」を明記することで、将来的な買い戻しが可能です。
なお、毎月の賃料はあくまで賃料であり、買い戻しのための積立ではないという点には注意してください。また、買い戻しの価格は、最初の売買の際の売却価格より高く設定されることが多いです。金額だけで評価すると多くのケースで損をすることになるという点も留意しておきましょう。
(4)家を高く売りたいかどうか
リースバックと通常の売却では、価格に大きな違いがあります。リースバックの売却価格は市場相場の7割程度になることが多いです。市場なら1,500万円の価値がある物件の場合、リースバックでは1,000万円から1,200万円ほどになる計算です。
売却代金で住宅ローンを完済したいなど、事情があって高く売りたい場合は通常の売却をおすすめします。
4.リースバックはトラブルも多い!利用時の注意点は?
リースバックは「住み続けたい」という希望のある方にとってはメリットの大きい売却方法ですが、トラブルも多いため、あらかじめ問題点を把握しておくことをおすすめします。トラブルに発展しやすいポイントと対処法について説明します。
(1)所有者が急に変わることがある
リースバックでしばしば発生するのが、物件を第三者に売却されて所有者が変わるという事態です。賃貸物件の売買自体は違法ではなく、借主の許可を取る必要もありません。しかし、急な所有者の変更は借主を不安にさせます。
特に、買い戻しについて以前のオーナーと約束していた場合、新たな貸主がその約束を守ってくれるかという点は不安なところです。
(2)買い戻し価格は事前に書面にしておく
買い戻しを希望する場合、買い戻しの約束と買い戻し価格を契約書に明記しておくことが重要です。
買い戻し価格について口約束で合意していたけれど、いざ買い戻しを要請した際に当初約束していた価格より高額を提示されるといったトラブルは少なくありません。その結果、買い戻しができないこともあります。
また、買い戻しの約束を保全する観点からも、書面にしておくことは重要です。貸主が変わった場合に買い戻しの約束を反故にされるといったトラブルを予防できます。
(3)リースバックに精通した不動産会社に相談する
リースバックは、リースバック会社にとっては不動産投資であり、それぞれ事業方針も異なります。どこが自分に合う不動産会社なのか判断するのは難しいため、業界の事情に精通した不動産会社を挟むことをおすすめします。
リースバックに精通した不動産会社であれば、事情をヒアリングしたのち、最適なリースバック会社を探して紹介してくれます。同時に複数社に査定を依頼し、結果を比較することもできるため、リースバックを有利に進めやすくなります。
5.まとめ
リースバックと賃貸は、どちらも一長一短といえます。まずは、「いくらで売りたいのか」「何年住みたいのか」「家賃はいくら負担できるのか」など、状況を整理して自分に合う方法を検討してみましょう。
リースバック会社は、それぞれ会社ごとに異なる運営方針をとっています。自分に有利なリースバック会社を探すには、複数社の査定結果を比較することが不可欠です。まずは、リースバックに詳しい不動産会社を探し、自身の状況やご希望を伝えてみてください。
当社は、多くのリースバックや任意売却を手掛けてきた住宅ローン滞納問題を専門的に扱う不動産会社です。ご相談者様の状況やご希望を丁寧にお伺いした上で、ご相談者様がより有利にリースバックできるようサポート致しますので、ぜひお気軽にご相談ください。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉