個人再生の住宅ローンの巻き戻しとは・マイホームを残せる?

個人再生の住宅ローンの巻き戻しとは・マイホームを残せる?

住宅ローンの滞納が続くと、代位弁済通知が届きます。代位弁済通知が届いた後も特に対処をすることなく住宅ローンの滞納を続けると、自宅は競売にかけられてしまいます。競売を回避する方法として、個人再生の「住宅ローンの巻き戻し」という制度の利用を検討する方もいらっしゃるようですが、住宅ローンの巻き戻しをすれば、本当にマイホームは残せるのでしょうか。

この記事では、個人再生の住宅ローンの巻き戻しについて解説します。

1.個人再生で利用できる「住宅ローンの巻き戻し」とは

住宅ローンの返済が長期的に滞れば、保証会社より代位弁済通知が届きます。この代位弁済を「なかったもの」とみなす制度が、「住宅ローンの巻き戻し」です。
個人再生の際に利用できる制度ですが、個人再生や住宅ローンの巻き戻しとはどのような制度なのか解説していきます。

(1)個人再生とは

個人再生は、裁判所へ申し立てることで借金の免除や減額が認められる債務整理方法の一種です。個人再生では、負債額や保有財産額などから法律に基づいて定められた金額に債務を減額できます。減額された債務を原則として3年間分割で支払い、この債務を完済すれば、法律上で負債を支払う義務が免除されます。住宅ローンの滞納が、住む家を失うことに直結するのを防ぐ救済制度と言えます。
自己破産とは違い、個人再生の場合は所有する財産を手放す必要がありません。

(2)住宅ローンの巻き戻しとは

住宅ローンの返済が長期的に滞れば、保証会社による代位弁済が行われます。
しかし、代位弁済されてしまっても6カ月以内に個人再生を裁判所へ申し立てれば、住宅を手放さずに済む可能性があります。

個人再生には住宅資金特別条項という制度があり、住宅ローンの残った住宅を残しながら債務整理することが可能です。
個人再生の住宅資金特別条項を含めた再生計画が認可されれば、代位弁済はなかったものとみなされます。
これを、「住宅ローンの巻き戻し」といいます。

(3)住宅ローンの巻き戻しによる効果

代位弁済から6カ月以内に個人再生を申し立てて住宅ローンの巻き戻しが認められた場合、法的には次のような効果が生まれます。

①保証会社の求償権が消滅する

住宅ローンの契約時には、借主が住宅ローンを返済できなくなった時には代わりに残金を保証会社が金融機関へ一括返済する「代位弁済」が行われるという旨が記載されていることが通常です。

代位弁済が行われた場合、債権者は金融機関から保証会社に変わります。そうすると、住宅ローンの残金への求償権は保証会社へ移り、借主は保証会社より残金の一括請求が行われます。これに応じて返済できなければ自宅を競売にかけられることになります。

しかし、住宅ローンの巻き戻しが行われれば、保証会社の求償権が消滅するため、保証会社より一括請求されることがなくなります。

②住宅ローンの債券が金融機関へ戻る

住宅ローンの返済滞納が続けば、金融機関から保証会社へ住宅ローンの債券を譲られるため、保証会社による代位弁済が行われます。

しかし、住宅ローンが巻き戻しされれば、住宅ローンの債券は保証会社から金融機関へと戻ります。
これは、代位弁済が行われた場合には住宅資金特別条項が適用されないことが法律で定められているため(民事再生法198条1項)、債務者が自宅を維持しながら経済的更生ができるように債券を金融機関へ戻して住宅資金特別条項が受けられるようにする目的があります。

なお、保証会社は住宅ローンの債券が金融機関へ戻ることにより、元の保証人の地位へ戻ることになります。

2.住宅ローンの巻き戻し条件

住宅ローンの巻き戻しが認められるには、以下の条件を満たす必要があります。

(1)保証会社が代位弁済をしている

住宅ローンの巻き戻しが認められるのは、保証会社が代位弁済しているケースのみに限られます。保証会社ではなく、家族や親族などによって代位弁済されている場合には、住宅ローンの巻き戻しは適用されません。
そのため、住宅ローンの巻き戻しを利用したい場合には、保証会社以外による代位弁済を行わないようにする必要があります。

(2)代位弁済から6カ月以内に個人再生を申し立てること

住宅ローンの巻き戻しの適用を受けるには、保証会社が代位弁済を行った日から6カ月を経過するまでに個人再生を裁判所へ申し立てる必要があります。1日でも経過すれば、住宅ローンの巻き戻しは適用されません。

そのため、保証会社の代位弁済日を正確に把握しておくことが重要です。

3.住宅ローンの巻き戻しによって利用できる個人再生の住宅資金特別条項とは

個人再生の住宅資金特別条項の制度を利用するには、住宅ローンの巻き戻しによって代位弁済が行われる前の状態(金融機関に債権がある状態)にしなければなりません。

住宅ローンの巻き戻しによって利用できる住宅資金特別条項について解説します。

(1)住宅資金特別条項とは

正式には、「住宅資金貸付債券に関する特則」と呼ばれる制度です。制度の性質から「住宅ローン特則」と呼ばれることもあります。

個人再生では債務の総額が大幅に減額されて再生計画に沿って返済を行うことになりますが、この債務の総額には住宅ローンも含まれます。しかし、住宅資金特別条項の制度を利用すれば、住宅ローンなどの住宅資金貸付に関しては減額債務の対象になりません。

つまり、住宅ローンは維持しながら、その他の債務を整理できるという制度です。

(2)住宅資金特別条項のメリット・デメリット

住宅ローンの巻き戻しをすれば、個人再生の住宅資金特別条項を利用できるようになります。

住宅資金特別条項には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

①メリット

住宅資金特別条項の最大のメリットは、住宅ローンをこれまで通りに支払うことで家を残せるという点です。

個人再生で住宅資金特別条項を利用しなければ、住宅は抵当権が実行されて競売にかけられてしまいます。しかし、住宅資金特別条項を利用することで家にそのまま住み続けることができます。また、場合によっては住宅ローンの返済期間を延長できることもメリットといえます。

②デメリット

住宅資金特別条項は個人再生の制度の一つです。
つまり、個人再生をすることが前提になるため、債務整理によって生じるデメリットを伴います。例えば、俗に言う「ブラックリスト入り」することで新規借入やクレジットカードが作成できなくなることはデメリットといえるでしょう。

また、個人再生をすれば申立てをした本人の債務は減額されますが、連帯保証人の返済義務はなくなりません。そのため、連帯保証人がいる場合は、あらかじめ連帯保証人に対して説明する必要があります。

4.個人再生の住宅資金特別条項を利用するための条件

住宅資金特別条項を利用するには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 住宅資金特別条項の対象となる債券が住宅資金貸付債権であること
  2. 住宅資金貸付債券が法定代位により取得されたものではないこと
  3. 債務者が所有する住宅で床面積の2分の1以上の部分が自己の居住のためにあること
  4. 住宅に他の債務を担保する抵当権が設定されていないこと
  5. 住宅の共同担保となっている不動産に別の担保権が後順位に設定されていないこと
  6. 保証会社の代位弁済から6カ月以内に個人再生を申し立てること

住宅資金特別条項を利用するための条件について詳しくみていきましょう。

(1)住宅資金特別条項の対象となる債券が住宅資金貸付債権であること

住宅資金特別条項の対象になる債券は、「住宅資金貸付債権」です。住宅資金貸付債権とは、住宅の建設や購入、改良に必要な資金です。

その中でも、分割払いの定めがある債券であり、住宅に抵当権が設定されているものであることが条件になります。いわゆる住宅ローンが住宅資金貸付債権に該当します。

(2)住宅資金貸付債券が法定代位により取得されたものではないこと

住宅ローンの返済を滞納し続けていると、保証会社が債務者の代わりに金融機関へ住宅ローンを返済する「代位弁済」が行われます。代位弁済すると、住宅資金貸付債権は保証会社に移り、保証会社が債務者に対する求償権を取得します。

このことを「法定代位」と呼び、法定代位が生じている状態では住宅資金特別条項を利用できません。

(3)債務者が所有する住宅で床面積の2分の1以上の部分が自己の居住のためにあること

住宅資金特別条項の対象は、債務者が所有する居住用の住宅です。

自己の居住のための住宅でなければなりませんが、単身赴任などで一時的に居住していない状態でも住宅資金特別条項を利用できます。

(4)住宅に他の債務を担保する抵当権が設定されていないこと

住宅ローン以外の債務を担保する抵当権が住宅に設定されている場合、住宅資金特別条項を利用することはできません。

例えば、住宅ローンだけではなく事業の資金の融資を担保するための事業者ローンが抵当権に設定されている場合や、借り換えローンの場合は住宅資金特別条項の対象外になります。

(5)住宅の共同担保となっている不動産に別の担保権が後順位に設定されていないこと

一つの債券を担保するために複数の不動産に抵当権を設定することを「共同担保」といいます。

別荘など住宅以外の所有不動産にも抵当権を設定して共同担保の状態なっており、その不動産に別の担保権が後順位に設定されている場合は、住宅資金特別条項を利用できません。

(6)保証会社の代位弁済から6カ月以内に個人再生を申し立てること

保証会社が住宅資金貸付債権を代位弁済した場合、代位弁済日から6カ月以内に個人再生を申立てた場合に住宅資金特別条項を利用できます。

代位弁済日から6カ月が過ぎると、住宅資金特別条項は利用できなくなります。

5.個人再生における「住宅ローンの巻き戻し」のポイントと注意点

個人再生における住宅ローンの巻き戻しが適用されれば、自宅を残しながら他の債務を減額できるというメリットがあります。

ただし、住宅ローンの巻き戻しの適用を受けるためには、以下のポイントと注意点についてあらかじめ知っておくべきでしょう。

(1)代位弁済された日と代位弁済通知の受取日は同日ではない

住宅ローンの巻き戻しは、「保証会社の代位弁済日から6カ月以内」に個人再生を申し立てることが条件です。保証会社の代位弁済日とは、代位弁済通知を受け取った日ではありません。

代位弁済通知を受け取ることが遅れたからという理由で巻き戻しの期限が延長されるわけではないため、代位弁済された日を把握しておく必要があります。

(2)期限内に個人再生の申し立ての受理が必要

住宅ローンの巻き戻しには代位弁済から6カ月以内に個人再生の申し立てが必要ですが、裁判所へ受理されてこそ巻き戻しは認められます。
そのため、弁護士に申し立てを依頼しただけでは申し立したことにはなりませんし、書類などが不足して再提出が必要になれば期限が過ぎてしまう恐れがあります。

期限内に裁判所へ申し立てが受理されるようにするには、期限よりも早い段階で弁護士に申し立てを相談することが大切です。

(3)競売手続きが開始されている場合は中止命令の申し立てが必要

保証会社による代位弁済が行われれば、いずれ自宅は競売にかけられることになります。
個人再生の申し立てまでに競売が開始されてしまった場合には、個人再生の申し立と同時に中止命令を申し立てる必要があります。
なぜならば、一般の再生債権者による強制執行の場合は個人再生手続きが開始されれば中止されますが、住宅ローン債券の抵当権として競売された場合は再生手続きが開始されても中止されないからです。

もし再生計画による巻き戻しが適用される前に競落されてしまえば、住宅資金特別条項を利用する意味がなくなってしまいます。裁判所へ中止命令を申し立てれば抵当権の実行の中止命令が出されるので、住宅資金特別条項を受けるためにも競売を停止する中止命令を申し立てましょう。

(4)巻き戻しができないケースもある

住宅ローンが巻き戻しされれば住宅ローンの債券が銀行に戻るので自宅を残せますが、そのためには個人再生の住宅資金特別条項が認められなければなりません。

前項で住宅資金特別条項の利用条件について解説しましたが、巻き戻しの条件を満たしていても住宅資金特別条項の利用要件が満たされていなければ、住宅ローンの巻き戻しをする意味がなくなります。
あらかじめ住宅資金特別条項の条件についても確認しておきましょう。

6.住宅ローンの巻き戻しができない場合の対処法

住宅ローンの巻き戻しができない場合、そのまま自宅を競売で手放すことになるのを待つしかないというわけではありません。
その他の対処法についても検討してみてください。

(1)任意売却を検討する

任意売却とは、住宅ローンの借り入れをしている金融機関へ相談し、自宅を売却する方法です。自宅を手放すことにはなりますが、任意売却をすれば競売よりも高い金額で自宅を売却できます。そうすることにより、住宅ローンの残金の返済に充てられる金額が大きくなり、返済負担を減らせます。任意売却の場合は売却後に残った残金を分割で返済できるケースも多いです。

ただし、任意売却では売却活動の期間が必要になるため、できる限り早く任意売却の実績を豊富に持つ不動産会社に相談すべきといえます。

(2)リースバックをする

どうしても自宅手放したくないという場合には、リースバックという選択肢があります。
リースバックとは、不動産業者や投資家へ自宅を売却して代金を受け取ると同時に、自宅の賃貸契約を結んで家賃を払いながら同じ家に住み続ける方法です。

ただし、リースバックでは永久的に住み続けることができるというわけではないため、将来的な買い戻しや引っ越しについて考えておかなければなりません。

まとめ

個人再生の住宅ローン巻き戻しが適用されれば、自宅を手放すことなく借金を整理することができます。
借金の返済が厳しくなっているものの自宅を手放したくないという場合には、個人再生の住宅資金特別条項を申し立てることを検討してみてください。
ただし、住宅ローンの巻き戻しには申し立て期限や住宅資金特別条項の要件など満たさなければならない条件があります。他の方法が適している場合もあるので、信頼できる専門家に相談してアドバイスを受けながら、ご自身に合う方法を選択してください。

当社は、住宅ローン滞納問題を専門的に扱う不動産会社です。ご相談者様の状況やご希望を丁寧にお伺いした上で、最適な解決方法をご提案します。
「個人再生を検討しているけれど、他にも良い方法があるなら比較したい」「住宅ローンを払えないけれど、今の家に住み続けたい」など、さまざまなご相談に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
こちらでは当社での相談から解決までの流れを紹介していますので、参考にしていただければと思います。

寺島 達哉
寺島 達哉

クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉

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