不動産担保型生活資金とは?利用条件やリバースモーゲージとの違いも解説
不動産担保型生活資金は、老後の生活費を確保する手段として、近年注目を集めています。メリットの大きい資金調達方法ですが、利用に際して条件があり、万人向けとはいえないのが実情です。
この記事では、不動産担保型生活資金の概要や利用条件、不動産担保型生活資金を利用する際の注意点などを解説します。
目次
1.不動産担保型生活資金とは
まずは、不動産担保型生活資金の概要について説明します。
(1)公的リバースモーゲージ
不動産担保型生活資金は、低所得の高齢者世帯に対して、一定の条件を満たす居住用不動産を担保として生活資金を貸し付ける国の制度です。国の生活福祉資金貸付制度の一つとして位置づけられています。生活福祉資金貸付制度は、低所得者、高齢者、障害者などが安定した生活を送れるよう、資金の貸付けと必要な相談や支援を行う公的制度です。
参考URL:生活福祉資金貸付制度(厚生労働省公式サイト)
高齢者層が自宅を担保として借入れを行うことができるという点で、リバースモーゲージと共通しているので、「公的リバースモーゲージ」と呼ばれることもあります。
(2)不動産担保型生活資金の概要
不動産担保型生活資金の概要は以下のとおりです。
- 資金使途:生活資金に限定
- 貸付限度額:居住用不動産の土地評価額の7割が標準
- 貸付月額:月30万円以内(原則として3カ月ごとの支払い)
- 貸付利率:年利3%または毎年4月1日時点の長期プライムレートのいずれか低い利率
- 貸付期間:借受人の死亡時までの期間又は貸付元利金が貸付限度額に達するまでの期間
- 連帯保証人:必要(推定相続人の中から選任)
(3)運営元の社会福祉協議会とは
不動産担保型生活資金を運営している社会福祉協議会は、地域福祉の推進を図ることを目的として、社会福祉法に基づき、全ての都道府県・市町村に設置されている組織です。
誰もが安心して生活を送ることができる地域社会づくりを目指して、福祉に関する相談や支援、自宅での介護や日常生活をサポートする在宅福祉サービス、災害時のボランティアのコーディネートなど幅広い活動をしています。
2.不動産担保型生活資金の利用条件
不動産担保型生活資金には、低所得者向けの不動産担保型生活資金と要保護世帯向け不動産担保型生活資金という2つの種類があり、それぞれに以下のような利用条件が定められています。
(1)低所得者向け不動産担保型生活資金
低所得者向けの不動産担保型生活資金は、一般向けの不動産担保型生活資金です。利用するためには以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 65歳以上の住民税非課税世帯または均等割り課税世帯であること(単身か夫婦のみ、またはその親・義理の親と居住)
- 土地評価おおむね1,500万円以上の戸建ての居住用不動産を所有していること(マンションは不可)
(2)要保護世帯向け不動産担保型生活資金
要保護世帯向け不動産担保型生活資金は、居住用不動産の活用を徹底させることによって、生活保護費の抑制を図ることなどを目的に新設された制度です。
利用するためには以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 本人と配偶者がともに65歳以上であること
- 資産価値が500万円以上の居住用不動産を所有していること
- 居住用不動産に賃借等の利用権や抵当権等の担保権が設定されていないこと
持ち家があり、上記の要件を満たす人が生活保護を利用しようとした場合、生活保護を受ける前に、要保護世帯向け不動産担保型生活資金を利用するよう促されます。
3.不動産担保型生活資金のメリット
不動産担保型生活資金にはどのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットについて説明します。
(1)自宅に住みながら借り入れができる
不動産担保型生活資金の大きなメリットは、自宅に住みながら借り入れができる点です。自宅を資金に換える方法としては売却が一般的ですが、売却すると住み慣れた自宅を手放して転居先を探す必要があります。
しかし、不動産担保型生活資金は自宅を担保とした借り入れなので、自宅に住み続けながら資金を得ることができます。
(2)自分の死後の自宅について心配がなくなる
住宅を所有している高齢者の方の心配事の一つが、自分の死後の自宅の処遇ではないでしょうか。子どもなど相続人がいる場合は、家を巡って争いに発展することも懸念されます。また、所有者がいなくなった家の管理も心配かと思います。
不動産担保型生活資金の場合、死後に担保としている住宅を売却することで、元本の一括返済を行います。売却後は、管理義務や所有権は買主に移るので、自分の死後の自宅について心配する必要はなくなります。
3.不動産担保型生活資金を利用する際の注意点
不動産担保型生活資金の利用に際しては、いくつか注意すべき点が存在します。具体的な注意点について説明します。
(1)土地の評価額が下落すると貸付限度額が下がる
不動産担保型生活資金の貸付期間中は、3年ごとに土地の再評価が行われます。融資限度額は土地の再評価額によって定められるため、土地の評価額が下落すると、貸付期間中でも融資限度額は下がります。
当初想定していたよりも貸付を受けられる金額が下がる可能性があるので、限度額ギリギリの借入れはリスクを伴います。
(2)資金使途は生活費金に限定されている
不動産担保型生活資金の資金使途は生活資金に限定されています。住み続けるために必要な修繕費用は認められますが、それ以外のリフォームなどの費用は認められません。また、介護施設などに入所するための費用に充てることもできません。介護が必要になり、特別養護老人ホーム、グループホームなどの施設に入居した場合は、原則として貸付停止または解約となります。
貸付期間中、訪問による生活状況調査に協力する必要があり、資金の使用用途をチェックされるので注意が必要です。
(3)金利が変動する
不動産担保型生活資金の貸付利率は、年利3%または毎年4月1日時点の長期プライムレートのいずれか低い利率です。毎年、金利の見直しがあるので、金利の変動に注意する必要があります。
2023年1月現在、長期プライムレートは1.4%と、2012年2月以来、約11年ぶりの高い水準にあります。背景には、米国の長期金利の上昇の影響があるようです。今後も長期プライムレートは上昇するかもしれません。
(4)契約者の死亡後に配偶者が住めなくなる可能性がある
夫婦二人で自宅に居住していて、貸付限度額に達した後に契約者である夫が亡くなった場合、原則として契約終了となります。契約終了後は、原則として自宅を売却して償還する必要があります。残された妻は自宅に住み続けることができなくなるので、注意が必要です。
貸付限度額に達していない場合は、妻が承継契約をして住み続けることは可能なので、契約者の死後に配偶者が住み続けたい場合は、貸付限度額ギリギリまで借り入れしないように注意しましょう。
4.不動産担保型生活資金と民間のリバースモーゲージとの違い
不動産担保型生活資金は公的リバースモーゲージとも呼ばれますが、金融機関などが提供している民間のリバースモーゲージとはどのような違いがあるのでしょうか。
不動産担保型生活資金と民間のリバースモーゲージの違いを解説します。
(1)対象者
不動産担保型生活資金の対象者は、市町村税非課税世帯などの低所得世帯が対象になります。一方、民間のリバースモーゲージは低所得世帯以外でも利用できます。基本的には、年金を含めて安定的な収入がある世帯が対象になっており、年齢も不動産担保型生活資金の場合は65歳以上が対象になりますが、民間のリバースモーゲージは55歳以上や60歳以上を対象とする商品が多いです。
(2)対象となる建物
不動産担保型生活資金で対象となる建物は、一戸建てのみになります。マンションは対象外です。また、居住用として住んでいることが不動産担保型生活資金の条件となります。
一方で、民間のリバースモーゲージは、一戸建てだけではなくマンションも対象になります。ただし、築年数や床面積などの要件を満たす必要があります。
(3)対象となる建物の評価基準
不動産担保型生活資金の場合、対象となる建物の評価額が1500万円以上という条件があります。
場合によっては1000万円でも借りられることもあり、民間のリバースモーゲージの土地評価基準より低く借りることができます。
(4)資金用途
不動産担保型生活資金の資金使用用途は、生活資金に限られています。自宅の修繕資金としても臨時費用として貸し付けを受けることもできますが、原則として資金用途が限られています。
一方で、民間のリバースモーゲージの資金用途の制限は緩やかです。老後の生活を豊かにすることが目的の商品になるため、旅行資金や老人ホームへの入居資金などさまざまな用途に活用できるという特徴があります。
5.不動産担保型生活資金を検討する際のポイント
不動産担保型生活資金を検討する際、確認しておきたいポイントについて説明します。
(1)資金の用途は希望に合っているか
まず、資金の用途がご自身の希望と合致しているかを確認しましょう。前述したとおり、不動産担保型生活資金の資金使途は生活資金に限られています。そのため、「旅行を楽しむための資金がほしい」「施設への入居を考えている」などという方には適していません。
民間の金融機関が提供しているリバースモーゲージなら、生活資金以外の用途を認めているものが多いので、生活資金以外の用途を希望する場合は、リバースモーゲージを検討するとよいでしょう。
(2)相続人の了承を得られるか
不動産担保型生活資金を利用すると、契約者が亡くなった後は、原則として自宅を売却し、売却によって得た資金で償還します。相続人が自宅を相続することはできなくなるので、自宅を相続することを希望している親族がいないかどうか事前に確認する必要があります。
また、不動産担保型生活資金を利用する際は、推定相続人の中から連帯保証人を立てる必要があります。連帯保証人には、不動産担保型生活資金の仕組みを理解してもらい、了承を得なければなりません。
(3)他の方法と比較する
不動産担保型生活資金には制限やデメリットもあるので、資金の確保を目的としている場合は、民間のリバースモーゲージ、リースバック、売却などの他の方法と比較した上で決定することをおすすめします。
不動産担保型生活資金と比較して、民間のリバースモーゲージ、リースバック、売却には以下のようなメリットとデメリットがあります。
①民間のリバースモーゲージの主なメリットとデメリット
メリット | ● 生活資金以外にも利用できる場合が多い
● 65歳未満でも利用できる場合がある |
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デメリット | ● 金利が高い可能性がある |
②リースバックの主なメリットとデメリット
メリット | ● 賃貸住宅として住み続けることができる
● 家は売却するため相続人には影響がない ● 固定資産税やマンションの管理費を払う必要がなくなる |
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デメリット | ● 毎月家賃が発生する
● 契約形態によっては長く住めないことがある |
③売却の主なメリットとデメリット
メリット | ● 連帯保証人は不要
● まとまった資金を得られる ● 借金ではないので返済を求められない ● 相続人に現金を残せる |
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デメリット | ● 自宅を手放さなければならない
● 引越しが必要となる |
自分の希望や状況などを考慮し、メリット・デメリットを比較した上で適した方法を選ぶことが大切です。
6.老後の住宅ローン返済が不安な場合の解決法
不動産担保型生活資金を利用するためには自宅の住宅ローンを老後に完済している必要がありますが、老後も住宅ローン返済が続くような方もいるでしょう。
老後の住宅ローン返済が不安な場合、次のような方法で問題解決を目指しましょう。
(1)住み替えローンを利用する
住み替えローンとは、今住んでいる家の住宅ローンの残債と新居を購入するための資金を併せて借り入れできる住宅ローンです。
「老後は今よりも狭い家で大丈夫だ」「老後は家の管理が大変なので戸建からマンションへ移りたい」などと考え、家を移り住みたいという方は少なくありません。
こうした場合、住み替えローンを組むことで老後の住まいや老後の住宅ローン問題を解決できる可能性があります。
(2)自宅を売却する
今の家を売却する場合、アンダーローンとオーバーローンでは対処法が異なります。
①アンダーローンの場合
アンダーローンは、家の売却金額が住宅ローン残高を上回る状態です。アンダーローンなら売却額で住宅ローンを完済することができ、残りの利益で新しい住居の購入や賃貸を検討できます。
アンダーローンの場合は、通常の不動産売却の方法で売却が可能です。
②オーバーローンの場合
オーバーローンは、家の売却金額が住宅ローンの残高を下回る状態です。この場合、家を売却しても住宅ローンが残ってしまうため、通常の方法で売却することはできませんが、任意売却という方法で売却することは可能です。
任意売却は通常の売却と同じ不動産市場で売却活動が行われるので、競売よりも高値で売却できる可能性が高く、競売を回避するために選択されることも多いです。任意売却を成功させるためには、債権者との交渉をスムーズに進めるための専門的なノウハウが必要なので、任意売却の実績を豊富に持つ不動産会社に相談することが大切です。
(3)個人再生の住宅ローン特則を利用する
住宅ローン以外の借金の返済にも困っている場合は、個人再生を検討してもよいでしょう。
個人再生は、借金を大幅に減額できる債務整理方法の一種です。
個人再生には住宅ローン特則という制度があり、要件を満たしていれば自宅を残したまま大幅に債務を圧縮することができます。
7.まとめ
この記事では、不動産担保型生活資金の概要や利用条件、不動産担保型生活資金を利用する際の注意点などを解説しました。
老後資金の確保を目的として不動産担保型生活資金を検討しているなら、民間のリバースモーゲージ、リースバック、売却など、他の方法と比較しながら慎重に検討しましょう。豊かで充実したセカンドライフを送るためにも、ご自身にとって最適な方法を選んでください。どの方法が適しているかわからない場合は、専門家に相談することをおすすめします。
当社では、不動産に関する相談を数多く受けており、ご相談者様の状況を丁寧にお伺いした上で、状況に合わせた改善策や対処法をご提案させていただいております。
「自宅に住み続けながら老後資金を確保したいが自分に適した方法がわからない」「老後の生活のために住み替えを検討したい」などという相談にも対応していますので、お気軽にご相談ください。
こちらでは、当社での相談から解決までの流れを紹介していますので、参考にしていただければと思います。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉