競売開始決定通知が到着後に競売を取り下げてもらうことは可能?
「住宅ローンを払えず、催促を無視していたら、突然、裁判所から競売開始決定通知という書類が届いた」当社には、こうした事態に直面して慌てて相談にいらっしゃる方が少なくありません。
この書類が持つ意味や、書類が届いた時点でどのような状況なのかがわからないことも、不安を感じさせる原因ではないでしょうか。
そこで、今回は「競売開始決定通知」という書類の意味や、書類到着後に競売を取り下げる方法などについて解説します。
1.競売開始決定通知とはどのような書類なのか
競売開始決定通知は、簡単にいうと「抵当権に基づいて差し押さえられた担保が、裁判所の手続きによって競売にかけられる」ことを、事前に所有者に知らせる書類です。
競売開始決定通知が到着した後は、競売に向けた準備が着々と進められます。
競売に向けた準備がどのように進行するのか説明します。
(1)債権者が競売を申し立て裁判所が許可を出した状態
競売開始決定通知が届いた時点では、債権者が競売を申し立て、裁判所が競売による債権の回収(担保物件の現金化)を許可した状態です。そのため、競売を実施するための準備が始まるのはこれからです。
実際に入札が始まるまでは、長い場合で半年ほどの猶予があります。しかし、これから競売を阻止するための対策を練るのであれば、必ずしも十分とはいえず、時間の余裕はあまりありません。
(2)競売開始決定通知到着後の流れ
競売開始決定通知の到着から、買受人に物件を引き渡すまでの流れは以下のとおりです。
- 競売開始決定通知の到着
- 家の現況調査(下見・査定)
- 期間入札通知の到着(入札可能な期間の通知)
- 期間入札の公告(家の情報の外部公開)
- 入札開始
- 開札(結果発表)
- 買受人による代金の納付
- 明け渡し
競売開始決定通知の到着から明け渡しまでは、長い場合で9か月程度です。ただし、競売での売却を止めたいのであれば、開札日の前日がタイムリミットとなります。この場合の実質的な猶予は、余裕のあるケースでも7か月程度です。
(3)放置すると家が売られ所有者は強制退去に
どのように対処すればよいかわからないからといって、裁判所からの書類を放置してはいけません。競売の手続きを放置すると、自宅が競売にかけられて、強制退去を求められてしまうからです。
競売は、債権者があらかじめ設定している権利に基づき、その権利の保護を最優先に進められます。そのため、所定の手続きを経ていれば、競売による売却にあたり所有者の許可は必要ありません。通知書類を無視していると、ある日突然、裁判所の職員が自宅を訪問し退去を求めるという事態もあり得ます。
2.競売開始決定後に取り下げてもらうことは可能か
では、競売開始決定通知が届いた後に、競売の手続きを取り下げてもらうことは可能なのでしょうか。競売を回避するために必要なポイントについて説明します。
(1)競売の取り下げが可能なのは申立債権者のみ
結論からいうと、競売の取り下げができるのは、競売の申し立てをした債権者のみです。
競売を取り下げてもらうには、債権者と交渉し、取り下げの手続きをするよう説得する必要があります。
住宅ローンを滞納して競売手続きに至った場合、保証会社か債権回収会社(サービサー)のいずれかが債権者であることがほとんどです。
(2)債権者の説得に必要な条件とは
債権者も、確実に債権を回収する必要があるため、「自宅を競売にかけられるのは困る」という理由だけで競売を取り下げるよう頼んでも、応じてもらえる可能性は低いでしょう。債権者を説得するためには、以下の二つの条件を提示する必要があります。
- 自宅を売却して借金を返済すること
- 競売より有利に売却すること
具体的には、任意売却という方法により、競売よりも高い価格で自宅を売却することを説明し、債権者から競売の取り下げの同意を得ることを目指します。
(3)競売と平行して任意売却を行う
債権者から、競売取り下げの同意を得られた場合でも、すぐに競売を取り下げてもらうことはできません。任意売却は失敗する(売れない)可能性があるため、任意売却に失敗した時の保険として競売も同時進行させるのが一般的だからです。
債権者の一存で競売を取り下げられるのは、開札期日の前日までです。必然的にこの日が任意売却のタイムリミットとなるため、期限を意識しながら準備を進め、早期に売却をまとめる必要があります。
3.競売を回避できる任意売却の3つのパターン
任意売却は売却先により3つのパターンがあります。それぞれ異なるメリットがあるため、当社では相談者様の状況をヒアリングし、適した売却方法をおすすめしています。
(1)一般市場で売却を行う通常の任意売却
通常の任意売却は、一般的な不動産市場で売却を行います。この場合のメリットは、買い手を広く募ることができることと、一見して任意売却だとわかりにくいことです。
不動産会社共通のデータベースである「レインズ」に情報を登録すると、民間の大手不動産情報サイトなどにも情報が掲載されることがあります。しかし、通常の中古住宅として他の物件と一緒に載ることになるため、サイトを見ただけでは任意売却物件とはわかりません。プライバシーを確保できるため、知人などに経済状況を知られることを避けたい方にもおすすめです。
任意売却について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
(2)親族に不動産を売る親族間売買
自宅を親族に売却する方法は、親族間売買と呼ばれます。
親族間売買のメリットは、売却後も住み続けられる可能性が高いことと、売却に際しての心理的抵抗が小さいことです。子世帯など気心の知れた相手に売却するケースが多いため、他人に売りたくない場合に適しています。
ただし、購入側の親族が住宅ローンを組みにくい、各種補助制度の利用を制限されることがあるなど、デメリットも存在します。スムーズに進めるためには、親族間売買に精通している不動産会社にサポートを依頼することが不可欠です。
親族間売買について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
(3)賃貸住宅として住み続けるリースバック
リースバックは、不動産投資事業を行っている会社や個人に物件を売却し、賃貸住宅として住み続ける方法です。親族間売買とは違い、家族や親戚に負担をかけることなく住み続けることができます。
ただし、リースバックでは売却価格を高くすると売却後の賃料も上がります。競売を申し立てている債権者が納得する売却価格にすると、賃料が高くなりすぎて払えないケースも少なくありません。
債権者、リースバック会社、売主の三者が納得できる落とし所を定めるのが難しいため、成功率は決して高くありません。他の方法と比較しながら検討することが大切です。
4.個人再生で競売回避を目指す方法も
多重債務に陥っている場合は、個人再生によって競売を回避できることもあります。
個人再生は住宅ローンだけなら問題なく返済が可能でも、他の債務の存在によって返済が難しくなったケースなどに有効です。また、競売が始まってからでも家を残せる可能性があるため、家を手放したくない場合に選択肢の一つとなります。
個人再生により競売を回避する方法について説明します。
(1)個人再生の住宅ローン特則とは
個人再生とは、申し立ての時点で負っている債務の返済計画を作成し、3年から5年かけて計画通りに返済することで、債務の大部分の免除を受けられる手続きです。圧縮できる債務の額はケースによって異なりますが、8割以上の減額ができる場合も多いです。
個人再生には、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)という制度があり、この制度を利用すると、住宅ローンを債務整理の対象外とすることで、家に住み続けながら大幅な債務整理を実現することができます。
住宅ローンは債務整理の対象から除外されるため、個人再生後も従来どおり返済する必要がありますが、他の債務が大幅に減額されるので、住宅ローン以外の債務が多かったために住宅ローンの支払いが困難な状況に陥っていた場合には有効な方法といえます。
(2)住宅ローン特則を利用すると競売手続きを停止できる
住宅資金特別条項を利用して個人再生の申し立てを行うと、既に競売の準備が開始していた場合でも手続きを停止させることが可能です。
ただし、保証会社による代位弁済から6か月以内に申し立てを行う必要があるという点には注意が必要です。
(3)個人再生を利用できるケースは限定される
個人再生は、マイホームに住み続けながら債務整理をする方法として非常に効果的に思えますが、利用できるケースは限定されています。
まず、住宅ローンしか借り入れがなく、収入が減ったために支払いが難しいというケースは対象外です。住宅ローン特則を利用しても、他の債務がなければ効果がないからです。
また、個人再生を利用すると、短期的な支払いが増えるという点にも留意が必要です。個人再生では、圧縮した債務を3年から5年で完済するよう計画を立てるため、この期間は負担が増加する場合があります。この期間中の支払いの継続が難しく、自己破産に至るケースも少なくありません。
個人再生を検討する際は「再生計画どおりの支払いができそうか」を慎重に判断する必要があります。検討する際は、住宅ローンの滞納に詳しい専門会社に相談し、他の選択肢と比較しながら慎重に判断することをおすすめします。
5.まとめ
競売開始決定通知の到着は、競売の準備が始まったことを意味します。放置すると、いずれ自宅は競売により強制的に売却されてしまうため、早期の対処が必要です。
取り下げの手続きは債権者にしかできないため、早めに債権者と交渉し、取り下げの同意を得ることが大切です。個人再生を利用できる場合は、そちらも合わせて検討してみましょう。
当社は、住宅ローン滞納問題を専門的に扱い、任意売却、親族間売買、リースバックなどの実績を豊富に持つ不動産会社です。ご相談者様のご希望や状況を丁寧にお伺いした上で、最適な解決方法をご提案します。「裁判所から競売の通知が届いたけれど、なんとか競売を回避したい」「住宅ローンの支払いが困難な状況だけれど、今の家に住み続けたい」などというご相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
こちらでは、当社での相談から解決までの流れを紹介していますので、参考にしていただければと思います。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉