任意売却で手数料はかかる?売却代金から捻出できる費用は?
住宅ローンの返済が滞り、任意売却を検討している場合、心配なのが手数料です。「手持ちの現金が少ない状況で、不動産会社に費用を支払うのは正直つらい」と感じ、相談を躊躇してしまうという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、任意売却は完全成功報酬制です。依頼時に着手金や手数料を請求されることはありません。この記事では、任意売却にかかる手数料と、売却代金から捻出できる費用について、解説します。
目次
1.任意売却に手数料はかかる?
任意売却を成功させるためには、不動産会社の全面的な協力が不可欠です。そのため、依頼時に手数料が発生するのではないか、と感じる方も多いかと思います。実際のところ、任意売却にあたっては、どのような費用が必要になるのでしょうか。
(1)任意売却の手数料は不動産会社への仲介手数料のみ
任意売却で売主が不動産会社に支払うのは、通常の不動産売却と同じく、売却成功時に発生する「仲介手数料」のみです。そのほかの費用負担は一切ありませんので、安心してください。
仲介手数料がいくらかかるかについては、宅地建物取引業法(宅建業法)の規定により上限が設けられています。売却価格帯と、対応する手数料率は以下のとおりです。
200万円までの部分 | 売却価格の5%+税 |
200万円超400万円までの部分 | 売却価格の4%+税 |
400万円調の部分 | 売却価格の3%+税 |
この規定を速算式になおすと「売却価格×3%+6万」になります。物件の売却価格が1,000万円の場合、手数料の上限は36万円になる計算です。
(2)任意売却の依頼時に現金を用意する必要はない
任意売却と聞くと、債務整理のように着手金や手数料が必要なのではないか、と心配される方もいらっしゃいます。しかし、先ほど少し触れたように、任意売却は完全成功報酬制です。そのため、依頼時に相談料やコンサルタント料などの費用は不要です。
唯一かかる不動産会社への報酬も、売買契約が完了した際に売却代金から支払う形になります。取り急ぎ必要な支払いはありませんので、経済的に苦しい方や手持ちの現金がない方も、安心して相談できます。
(3)事務手数料や販売促進料などの費用を請求する会社に注意
インターネットで任意売却の業者を探すと、事務手数料や販売促進料など、さまざまな名目で依頼者から費用を徴収しようとする業者が存在します。
実は、これらの業者のほとんどは、困窮した依頼者から費用を搾取する悪徳業者です。「高い着手金を支払ったのに売却に失敗された」「このままでは売れないので販促料を払うよう要求された」などという被害が後を絶ちません。
不動産売買の仲介を規制する宅地建物取引業法(宅建業法)では、不動産会社は仲介手数料以外の報酬を売り主から受け取ってはいけない決まりになっています。さまざまな名目での別途費用の請求は、明らかな違法行為です。
優良な不動産会社はきちんと法にのっとって営業しているため、仲介手数料以外の費用を請求することはありません。
2.任意売却で代金から持ち出せる費用は?
任意売却では、不動産の売買にあたり発生する経費や、精算が必要な費用があります。しかし、経済的に困窮している方にとって、これらの金額を自分で用意するのは難しいものです。
任意売却では、売却代金の一部を、債権者の同意を得て経費や清算金にあてることができます。売主が経済的に困窮していることは、債権者も重々承知しているからです。では、具体的にどのような費用を、売却代金から捻出できるのでしょうか。
(1)物件の売却に必要な諸経費
まず、物件の契約時に必要な経費は、売却代金から持ち出すことができます。
ここでいう「経費」には、たとえば以下のような費用が含まれます。
契約時に現金の手持ちがない場合でも、売却は問題なく行えますので、安心してください。
【売却時に発生する経費(一例)】
①不動産会社に支払う仲介手数料
任意売却では通常の売却と同様に不動産会社と媒介契約を締結し、仲介手数料を支払います。この仲介手数料の上限は通常売却でも任意売却でも同様となり、宅地建物取引業法の規定通りです。
仲介手数料の算式は、前項での説明を参考にしてください。
②抵当権の抹消にかかる登録免許税
住宅ローンを組む際には、ローンが返済されないリスクに備えて金融機関は担保としてローン対象の物件に抵当権を設定します。
抵当権がある間は自由に売却することができないため、ローンを組んだ金融機関へ任意売却を相談して抵当権を外してもらう必要があります。この抵当権を抹消するためには費用が発生します。
抵当権の抹消に必要な費用は、以下のものが挙げられます。
- 登録免許税:不動産1つにつき1,000円
- 登記情報代:事前調査費用1件335円、登記官押印後の証明書1件600円
- 郵送料:書留料金など
③登記手続きを依頼した司法書士への報酬
抵当権の抹消登録を含め、不動産の売却では登記手続きが必要です。
この手続きは法務局とやり取りが必要になります。ご自身で行うこともできますが、知識と正確性が求められる手続きなので、司法書士に依頼することが一般的です。
司法書士への依頼料は、1万円程度が目安になります。
④売買契約書の印紙税
買主と売買契約を締結する際には売買契約書を作成しますが、売買契約書には収入印紙を貼る必要があります。印紙税はこの収入印紙に対してかかる税金で、印紙を契約書へ貼ることで税金を納めたことを証明できます。
印紙税の金額は、売買契約書へ記された不動産の価格によって異なります。
契約価格 | 本則税額 | 軽減税額 |
---|---|---|
100万円~500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円~1000万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
1000万円~5000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
軽減税額は、2024年3月31日までの適用になります。
(2)滞納中の各種税金
住宅ローンを滞納して任意売却を検討しているケースでは、固定資産税や都市計画税など、各種税金を滞納していることも多いです。これらの税金も、売却代金から持ち出せる場合があります。
ただし、税金に関しては、滞納中の金額が多額だと全額持ち出せない場合や、債権者から持ち出しの同意が得られないこともあります。
(3)管理費・修繕積立費
滞納しているマンションの管理費や修繕積立費も、売却代金から一部を持ち出して清算できることが多いです。というのも、管理費や修繕積立費を清算できなければ、そもそも売却自体ができないことがほとんどだからです。
マンションを売却すると、管理費や修繕積立費の支払い義務は買主に継承されます。滞納分を引き継いでまでマンションを購入してくれる買主はほぼいません。滞納したままでは買い手がつかないため、金融機関も持ち出しに同意してくれることが多いです。
ただし、こちらもあまりにも多額な場合や、滞納分が売却価格に占める割合が多い場合、持ち出しの同意が得られないこともあります。このあたりは状況に応じて変化します。
(4)引っ越しにかかる費用
引っ越しの費用も売却代金から持ち出しできることがあります。
ただし、引っ越し費用の持ち出しについては、債権者の同意が得られないこともあり、不動産会社の交渉力の見せ所となります。なかには「引っ越し費用全額持ち出しOK」「100万円持ち出し可能」などと謳う会社もありますが、ほとんどの場合、これは依頼を集めるための誘い文句です。
引っ越し費用の持ち出しの可否や金額は、債権者の方針で決定されるため、相談段階では確約できない、というのが実情です。交渉の進み具合を見つつ、低料金の引っ越し会社を探しておくことをおすすめします。
3.任意売却で税金は発生する?
不動産をはじめとする取引には、各種税金が発生します。任意売却の場合、どのような税金が発生するのでしょうか。
(1)個人が売却する場合、消費税は発生しない
消費税は、さまざまな商品の購入時に購入者が支払い、売主である事業者が顧客に代わって国に納める税金です。不動産取引では建物が消費税の対象ですが、売主が法人などではなく個人の場合、消費税はかかりません。
参考:消費税のしくみ|国税庁
(2)譲渡所得税や住民税は発生しない場合がほとんど
不動産を売買して利益が出た場合、譲渡所得として、その年の所得が増加します。毎年の所得は、所得税と住民税の対象となります。
ただし、任意売却は、ローン残高より売却価格が低い場合の売却方法なので、売却による利益が出ることはほとんどありません。利益が出なければ、売却による譲渡所得税や住民税が発生することはありません。
(3)所有権移転の費用は買主負担
所有権移転の申請費用は「登録免許税」と呼ばれ、厳密に言うと税金の一種です。
所有権移転の費用をどちらが払うかは特に規定はありませんが、一般的には買主が負担します。
4.任意売却は競売より経済的負担が軽い
任意売却は、不動産を売るという点では競売と同じです。しかし、一般的に競売より任意売却の方が、さまざまな面で売主の経済的負担が軽くなります。
(1)売却価格に大きな差がある
競売と任意売却では、売却価格に大きな差があります。
市場価格と比較した場合、競売になると高い場合で7割程度での売却となることが多いです。安い場合は、一般市場の半分ほどの価格での売却となることもあります。一方、任意売却ではおおむね一般市場と同程度の価格で売却することが可能です。
(2)売却にかかる費用も異なる
競売では、裁判所へ申し立てを行う費用や予納金(現況調査や評価などの手数料に充てられる費用)など任意売却とは異なる費用が発生します。
競売による売却でかかる費用は、以下のように規定されています。
申立手数料 | 担保権1件につき4,000円 | |
---|---|---|
予納金 | 2000万円以下 | 80万円 |
2000万円~5000万円以下 | 100万円 | |
5000万円~1億円以下 | 150万円 | |
1億円以上 | 200万円 | |
登録免許税 | 請求債権額の1000分の4 | |
郵便切手代 | 裁判所ごとに異なる |
こうした費用は債権者が競売の申立の際に一括して支払っており、売却後に売却代金から支払われます。
競売の方が任意売却よりも売却にかかる費用は高くなり、その分、返済に充てられる金額が減ってしまいます。
(3)売却後の残債処理の違いも
競売では、家を売却した後の残債は一括返済を求められるケースが多く、変更を申し入れたい場合は自分で交渉しなければなりません。
任意売却の場合、売却を依頼した不動産会社が、売却後の残債処理の交渉をしてくれることがあります。例えば、毎月の返済額を3万円にするなど、経済的な負担が少ない方法で返済できるよう交渉することにより、無理のないペースで返済できるようになります。
5.任意売却で特別費用が発生するケースについて
任意売却では売却代金から費用を捻出でき、引っ越し費用などは債権者から認められるケースもあります。しかし、債権者に認められないような特別費用が発生するケースもあります。
必ず発生する費用ではありませんが、場合によっては発生することもあるため知っておきましょう。
(1)差押えがある場合
任意売却までにローン返済を長期滞納して差押えられているような場合、または税金や保険料などを滞納している場合、物件が差し押さえられてしまいます。
任意売却するには差押えの解除が必要です。なぜなら、差し押さえられている状態では移転登記ができないからです。
差押えを解除するために発生する費用が「差押解除費用」で、差押えをする債権者へ支払うことで差押えの解除を行います。
(2)登記識別情報を紛失した場合
登記識別情報を紛失してしまった場合には、本人確認情報の提供が必要です。
本人確認情報は司法書士に依頼して作成してもらい、法務局へ提出することになりますが、費用として5万円~10万円程必要になります。この費用は債権者に認められないことが多いです。
6.任意売却成功のためのコツは?
任意売却は、その特殊な性質から、通常の不動産売却と同じように進めると失敗する場合が多いです。では、成功のためにはどのような点に注意すればよいのでしょうか。
(1)任意売却の実績が豊富な会社に相談する
まず、任意売却を依頼する不動産会社は「任意売却を専門としている」または「任意売却の実績が豊富である」ことを基準に選びます。
通常の不動産会社でも「宅地建物取引業」の免許を持ってさえいれば、法的には任意売却を扱うことは可能です。しかし、任意売却は「金融機関との交渉」や「競売のスケジュールを意識した売却活動」など、通常の不動産会社の専門外の作業が発生します。
一般的な不動産会社のなかに「任意売却もOK」としている会社もありますが、経験不足では手に余ることが多いです。とくに債権者との交渉は「金融機関から不動産会社に対する信用」がものをいいます。実績の不足している不動産会社では、費用の持ち出しどころか任意売却の同意すら取り付けられず、あえなく競売で売却されてしまう可能性も高いでしょう。
不動産会社選びでは、まず実績をチェックして候補をピックアップし、その中から依頼先を選ぶようにしましょう。
(2)早期に任意売却の準備を始める
任意売却の成功を左右するポイントのひとつが、使える期間の長さです。競売の入札まで間もないタイミングで不動産会社に相談した場合、交渉や売却活動が十分にできず、競売で売却されてしまう可能性が高まります。
例えば、物件の売却活動ひとつ取っても、使える期間が長ければ有利に売却できる可能性は高まるでしょう。一方、ギリギリでの売却になると、価格より早期成約を優先して買主を探さなければならないこともあります。また、着手が遅れBIT(不動産競売情報サイト)に物件情報が公開されてしまうと、知人に経済状況を知られてしまうことも懸念されます。
このように任意売却では、着手の遅れは多くのデメリットをはらみ非常にハイリスクです。基本的に、任意売却の相談は、早ければ早いほどアドバンテージがあるといえるでしょう。住宅ローンを滞納していない段階でも、近いうちに滞納して競売になる見込みが高ければ、不動産会社に問い合わせてみましょう。
(3)弁護士など専門家と連携している会社を選ぶ
司法書士や弁護士など、専門家と連携している会社を選ぶのも重要なポイントです。任意売却を検討する方は、住宅ローン以外の借り入れや税金の滞納など、その他の債務も負っていることが多いためです。
また任意売却では、売却後も住宅ローンは残ります。これらの債務を整理し、生活を再建するなら「売って終わり」の不動産会社では十分なサポートを提供できません。
専門家と連携している不動産会社であれば、売却の過程で生じる各種法律問題や、住宅ローン以外の債務についても相談できます。売却後の破産や債務整理などの手続きも支援してくれるため、安心感が高いといえます。
このように、法律職との連携による、生活を立て直すためのトータルサポートが可能かどうかは、非常に重要なポイントです。
7.まとめ
任意売却では、仲介手数料以外の費用は一切かからないのが通例です。滞納中の税金や売却に関する経費も、売却代金から捻出できることが多いため、相談時点で現金の用意は必要ありません。
しかし、なかには「相談料」「販売促進料」などの名目で、依頼者から別途費用を徴収する業者も存在します。宅地建物取引業法では、原則仲介手数料以外の報酬を受け取ることはできないため、これは違法行為です。注意してください。
任意売却を成功させるためには、任意売却の実績が豊富で専門家と連携している会社に、なるべく早く相談することがポイントとなります。当社では、これまでの3,000件以上の実績を元に、任意売却と、その後の生活再建までサポートしてきました。金融機関との交渉を熟知したスタッフが対応致します。お気軽にご相談ください。
こちらでは、当社での相談から解決までの流れを紹介していますので、参考にしていただければと思います。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一