任意売却に必要な条件とは・よくある失敗例と成功確率を上げる方法も解説
任意売却は、住宅をローンの担保として設定している場合に有効な売却方法の一つです。しかし、どのような場合でも任意売却できるわけではなく、一定の条件が存在します。
「自分の場合は任意売却できるのか」、「どのような場合に任意売却できないのか」などという疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
そこでこの記事では、任意売却の条件、よくある失敗例、任意売却成功のコツなどについて解説します。
1.任意売却とは?
任意売却は、住宅ローンなどの債務を滞納しており、かつ担保の売却価格を残債が上回っている場合に、債権者の同意のもと売却することです。通常の不動産売却とは違い、一括で完済できないため、債権者と協議を重ねた上で売却を行うことになります。
任意売却はローンの滞納が前提となるため、裁判所の競売手続きと同時に進行します。競売のスケジュールを意識し、期日に間に合うよう準備を進めなければなりません。
(1)任意売却の流れ
任意売却は、相談から売却完了まで以下の流れで進みます。
- 不動産会社に相談する
- 債権者への任意売却の許可取り付け・売出価格の交渉
- 不動産会社との媒介契約の締結
- 売却活動開始
- 内見・申し込み対応
- 配分案の作成・売却の同意の取り付け
- 売買契約締結
- 決済・引渡し
以上の工程を、競売で売却される前に完了しなければなりません。そのため、任意売却は時間との戦いといえます。
(2)任意売却のメリット
「任意売却しても残債が残るなら、わざわざ任意売却する必要はないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、任意売却には、競売と比較して所有者の負担が大幅に小さく済み、売却後の生活再建もスムーズに進むというメリットがあります。
【任意売却のメリット(一例)】
- 競売と比較して2割~4割ほど売却価格が高い
- 家に強制的に立ち入られたり追い出されたりしない
- 売却の経費の一部を売却代金から持ち出せる
- 外部から「任意売却物件である」とはわからない形で売却できる
- 引越代の捻出が可能な場合がある
競売は、債権者の権利が最優先となるため、所有者のスケジュールやプライバシーに関する配慮はありません。売却代金の持ち出しもできないため、所有者の経済的・心理的負担が大きい売却方法なのです。
(3)まずは通常売却ができないか検討する
任意売却はあくまで住宅ローンの残債が自宅の売却価格を超える場合の売却方法です。自宅の売却価格が住宅ローンの残債を超える場合、または自宅を売却した後の残債を手持ちの資金で支払える場合は、通常の方法で売却することが可能です。まずは不動産会社に査定を依頼して自宅の売却価格の目安を把握しましょう。
不動産会社に査定を依頼する際、最低でも3~4社に依頼して見積もり価額を確認してみてください。不動産会社によって「マンションが得意」「高級住宅のノウハウが豊富」などと得意なジャンルや特徴があります。
2.任意売却が通常売却と異なる点
任意売却と通常の不動産売却とはどのような点が異なるのでしょうか。主なポイントについて説明します。
(1)売却価額を勝手に決められない
通常の不動産売却では、その物件をいくらで売却するかは所有者が自由に決められます。しかし、任意売却の場合、価格の決定権は債権者にあります。
これは、引き渡しの際の抵当権の解除が債権者にしかできず、売却価額が債権者の取り分に直結するためです。債権者に利益のある金額でなければ、売却に同意してもらえず抵当権を解除してもらえないため、売却が不成立となります。
このことから、任意売却では一般的な値引き交渉についても、簡単には応じられないという点に注意が必要です。
(2)手付金は発生しない
任意売却では、手付金は発生しないことが一般的です。
通常の売却では、代金の一部を契約締結時に手付金として支払うことが通例です。しかし、任意売却では手付け分も住宅ローン返済に充てられます。売主の使い込みなどのトラブル防止の観点から、引き渡し時に代金の全額を決済することが多いのです。
なお、任意売却で手付金が発生するケースでは、仲介の不動産会社の預かりとなることもあります。
(3)契約不適合責任は免除される
不動産の売買では、売主には契約不適合責任という法的責任が発生します。
これは、対象の不動産が契約に記載されている内容と異なる状態だった場合に、金銭を支払うなどの形で欠陥を補償することです。たとえば、売主も知らない間に家の内部がシロアリの食害に遭っており、そのことを買い主に説明していないケースなどが該当します。
しかし任意売却では、契約不適合責任は免除とする特約を設けることが多いです。隠れた欠陥が発覚したからといって補償できない方が大半だからです。補償したくても経済的に余裕がないため、あらかじめ契約不適合責任は免除という形で買い主と合意しておきます。
その分、買い主から「売却価額を少し安くして欲しい」などという要望があるかもしれませんが、売却後に法的責任を追及される心配はありません。
3.任意売却ができる条件
任意売却には、いくつかクリアしなければならない条件が存在します。主な条件について説明します。
(1)所有者・連帯保証人の売却許可が得られること
任意売却を行うためには、所有者と連帯保証人の許可が必要です。売却後の残債への保証債務が残るため、事前に連帯保証人の同意を得ておく必要があります。
任意売却を希望される方の中には、「物件を共有している他の所有者の同意が得られない」、「子がローンを滞納しているが、任意売却したがらない」などという問題を抱えている方もいらっしゃいます。このようなケースでは、まずは必要な同意を取り付けることから始める必要があります。
(2)債権者が任意売却に同意すること
任意売却の対象は、売却価格より残債が多い「オーバーローン状態」の物件です。そのため、売却には債権者の許可が必要です。抵当権を解除してもらわなければ、購入者に所有権を移すことができません。
債権者の同意は、以下の2回必要となります。
- 任意売却の着手への同意
- 売買契約時の価格と配分案(代金の配当割合)への同意
いかにこの同意を取り付けるかが、任意売却成功のカギとなります。
(3)代位弁済後であること
任意売却は、基本的に代位弁済後にしか同意を得られません。
住宅ローンを貸し付けている金融機関は、滞納の発生に備えて、債務者に保証会社との保証契約を結ぶよう要請します。滞納発生時、金融機関は保証会社から借入金の一括返済(代位弁済)を受けられるので、任意売却に応じる必要がないのです。
そのため、任意売却の交渉相手は以下のいずれかになります。
- 代位弁済により債権者となった保証会社
- 保証会社からローンの債権を譲渡された債権回収会社
(4)管理費・修繕積立金の滞納が少ない
マンションの場合、管理費と修繕積立金の滞納額も、任意売却の可否を左右します。
管理費と修繕積立金を滞納している場合、引き渡しまでに払わなければ売却できません。少額であれば売却代金から捻出できますが、あまりに多額だと債権者が受け取る返済額が大きく減少するため、任意売却を断られることがあります。
4.【失敗例】任意売却できないケース
任意売却は、着手すれば必ず売却できるわけではありません。準備を始めても売却まで漕ぎつけられず、競売にかかってしまうケースもあります。ここでは、任意売却のよくある失敗例を紹介します。
(1)任意売却の期限まで日がない
典型的な失敗例として挙げられるのは、任意売却の期間を確保できず、競売に間に合わないケースです。
任意売却には、「競売の開札期日の前日」というタイムリミットがあります。それまでに債権者との交渉や売却活動など、すべての工程を終わらせなければ売却はできません。期日が迫っていると、競売で売却されてしまう可能性が高くなります。
当社に相談に来られる方の中には、「これから経済状況が好転するかもしれない」という希望から、初回相談では決断を保留される方もいらっしゃいます。しかし、その後、任意売却の必要に迫られると、時間をいたずらに経過させてしまうこととなります。経済状況が回復する見込みが薄い場合は早めに着手した方がよいことも多いです。
(2)物件に買い手がつかない
任意売却物件は、「契約不適合責任の免責」、「契約の白紙撤回のリスクがある」などという買主側にとっての不安要素をはらむため、敬遠されることがあり、通常の物件より売れにくいです。
そのため、任意売却物件を確実に売却するためには、物件の魅力を適切にアピールする、当初から売れやすい価格に調整するなどの工夫が必要です。
(3)共有者の説得に失敗する
所有者が複数いる共有名義の物件の場合、共有者全員の同意が必要です。一人が任意売却を希望しても、他の共有者が同意しなければ、任意売却はできません。よくあるのが、夫婦の共有名義で自宅を購入し、離婚時・離婚後に任意売却を検討するケースです。
離婚を経た夫婦は険悪な関係にあることも多いため、任意売却がうまく進まないことは珍しくありません。このような場合、一人で説得しようとしてもうまく進まないため、不動産会社や弁護士などの専門家に間に入ってもらう必要があります。
(4)任意売却の実績のない不動産会社に依頼する
任意売却の実績のない不動産会社に依頼してしまうというケースも、よくある失敗例の一つです。
任意売却は専門知識や経験が不足していると成功させることが難しく、大手や地元密着型の一般的な不動産会社では対応できない可能性が高いです。専門知識や経験が不足している不動産会社に依頼した結果、任意売却の交渉に失敗して、その後、当社にご相談をいただく事例も少なくありません。
(5)国・市区町村から差し押さえが入る
住宅ローンのほかに、固定資産税などの税金も滞納してしまっている場合、国や市区町村などから差し押さえが入ることがあります。自治体の差押え登記がある場合、仮に金融機関が抵当権を解除しても売却はできません。
しかし、すでに住宅ローンの抵当権が設定されている家を差し押さえても、住宅ローンの債権者に優先的に返済されるため、滞納税を回収できないことが多いです。この場合、国税徴収法に規定される禁止事項「無益な差押」に該当します。
“(超過差押及び無益な差押の禁止)
第四十八条 国税を徴収するために必要な財産以外の財産は、差し押えることができない。
2 差し押えることができる財産の価額がその差押に係る滞納処分費及び徴収すべき国税に先だつ他の国税、地方税その他の債権の金額の合計額をこえる見込がないときは、その財産は、差し押えることができない。“
引用:国税徴収法|e-GOV法令検索
こうしたケースでは、差し押さえを解除するよう市区町村と交渉することになります。強硬に差し押さえの解除を拒否する自治体も存在するため、粘り強い交渉が必要です。
5.任意売却を成功させるコツ
任意売却の成功確率を上げるためには、「なるべく早く」「専門会社に相談すること」が大切です。それぞれの詳細について説明します。
(1)任意売却の専門会社に相談する
前述した通り、任意売却は専門的な知識・経験が必須なため、任意売却を専門的に扱う不動産会社に相談することをおすすめします。任意売却を専門的に扱う不動産会社と一般的な不動産会社には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
①共有者・連帯保証人の説得ができる
まず、任意売却を専門的に扱う不動産会社では、物件売買のトータルサポートが可能です。
任意売却では、共有者や連帯保証人が任意売却に同意しないことは少なくありません。共有者との関係が悪化している場合や、連帯保証人が任意売却についてよく知らないために「怪しい」「怖い」などと感じて同意を躊躇する場合も多いからです。
任意売却を専門的に扱う不動産会社は、そのようなケースに何度も直面しているため、共有者や連帯保証人が任意売却に同意しない場合に、どのように説得すればよいかなどの相談に乗ってくれます。当事者間の関係が悪化していて話し合いが難しい場合は、間に入って説得してもらうことも可能です。
②債権者が多く利害関係が複雑な場合も対応可能
任意売却では、債権者が一人ではないこともあります。このような場合、利害関係が複雑化し、同意を取り付ける難度が高くなるため、一般的な不動産会社では対応できません。
例えば、不動産を事業用借入の担保としていると「一番抵当権」「二番抵当権」など、複数の金融機関が抵当権を設定しているケースがあります。このような場合、債権者全員の意向をまとめ、同意を取り付ける必要があるため、任意売却の豊富な経験と知識が不可欠なのです。
また、任意売却で購入者が見つかったとしても、債権者や差押権者との交渉がうまくいかず、任意売却をできていたのに破談となるケースもございますので任意売却を専門に取り扱っている会社へ相談をお勧めいたします。
③債権者との交渉は過去の実績がものをいう
任意売却の同意を取り付けられるかどうかは、不動産会社の過去の実績に左右される面が多いです。債権者が任意売却の同意を渋るケースでは粘り強い交渉が必要となるためです。どこに落としどころを設定するかわからなければ、交渉をまとめることは難しくなります。実績のない不動産会社だと、そもそも交渉のテーブルにつけないこともあります。
過去の任意売却で知識と経験を蓄積しており、債権者からの信用を得ている専門会社なら、任意売却を成功に導ける確率はぐっと高くなります。
(2)相談は早めに行う
任意売却を進めるにあたり、最も懸念すべき要素の一つは期間の経過です。先ほどご説明したとおり、任意売却には「競売の開札期日の前日まで」という期限があり、この時点で完了していなければ競売で売却されます。
債権者との交渉や売却活動に充分に時間をかけ、理想的な結果を得るには、早めの着手が重要です。将来的に支払えなくなる可能性が高いのであれば、ローンの滞納が始まる前でも一度相談してみることをおすすめします。
任意売却の依頼先を選ぶ際のポイントや注意点については、こちらの記事にまとめましたので、参考にしていただければと思います。
6.まとめ
任意売却を進めるには、債権者や連帯保証人の同意が得られること、修繕積立金の滞納が少ないことなど、クリアしなければならない条件がいくつか存在します。ご自身が任意売却できるのか判断がつかない場合は、任意売却を専門的に扱う不動産会社に相談するとよいでしょう。
当社は、3,000件以上の相談実績を持つ、任意売却の専門会社です。法律の専門家と連携しており、任意売却後の残債処理まで含めた、生活再建のサポートを提供しています。状況によっては、家に住み続けられる形で解決することも可能です。「競売だけは回避したい」「住宅ローンを払えないけれど、今の家に住み続けたい」など、さまざまなご相談に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一