共有名義物件は任意売却できる?売却の方法や注意点を解説
住宅ローンの支払いが困難な状況になり、競売を避けるために自宅を任意売却する方は増えています。しかし、自宅が共有名義の場合、任意売却を進めるためには所有者全員の同意が必要となり、手続きも複雑になります
今回は、共有名義物件を任意売却する場合の手続きの流れや注意点について解説します。
目次
1.共有名義物件とは
共有名義物件の任意売却について解説する前に、まずは共有名義物件について説明します。
(1)共有名義と単独名義について
不動産を購入すると、登記簿に所有者の名前を名義人として登録することになります。
この際、名義人が一人だけの場合は単独名義、複数人を名義人として登録していることを共有名義といいます。
共有名義の場合は、物件の所有者が複数人存在し、各自が自分の所有権を主張することが可能です。
(2)共有名義にはさまざまな制限がある
物件が共有名義の場合、単独名義とは違い、法律上の行為をする際に制限があります。
共有名義と単独名義における制限の違いは、以下の表のとおりです。
法律上の行為 | 共有名義 | 単独名義 |
処分(売却など処分する行為) | 全員の同意が必要 | 自己判断で可能 |
利用(有利に利用するための行為) | 過半数の同意が必要 | 自己判断で可能 |
保存 (現状を維持するための行為) | 単独で可能 | 自己判断で可能 |
改良(価値を増加する行為) | 過半数の同意が必要 | 自己判断で可能 |
このように、共有名義は単独名義とは異なり、処分、利用、改良などをする際には共有名義人の過半数または全員の同意が必要となります。
2.共有名義物件は任意売却できるのか?
共有名義物件を任意売却することはできるのでしょうか。
任意売却に関する基礎知識や、共有名義物件を任意売却するために必要な条件などについて説明します。
(1)任意売却とは
任意売却とは、住宅ローンの残高が不動産の売却価格を上回り、通常の方法では売却できない場合に、債権者の同意を得た上で売却することです。
住宅ローンが残っている物件は抵当権を抹消できないため通常の方法では売却ができません。しかし、任意売却では、債権者に対して不動産売却代金の配分案を提示し、承認を得ることで抵当権を解除してもらい、売却することが可能になります。
売却代金で残りの住宅ローンを支払い、残った債務は金融機関へ相談して分割払いで返済していくことが一般的です。
(2)共有名義物件でも任意売却は可能
共有名義の物件でも、任意売却をすることは可能です。
ただし、共有名義物件を任意売却するためには、共有名義者全員の合意が必要になります。
このことは民法251条にも、「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ共有物に変更を加えることができない」と定められています。
(3)共有持分のみの任意売却は可能か?
共有名義の場合、それぞれの共有名義者が持つ権利の割合を「共有持分」と呼びます。
共有持分の割合は均等の場合もあれば、そうではない場合もあります。
共有持分の処分は権利者自らの判断で行うことができるため、共有名義者の間で意見が対立して物件の売却ができない場合でも、ご自身の共有持分のみを売却することは可能です。
ただし、任意売却をする場合、抵当権を抹消する必要があります。抵当権が共有持分のみに設定されている場合は、債権者との交渉により抵当権を解除してもらえれば、任意売却が可能ですが、抵当権が共有持分のみに設定されているのは稀なケースでしょう。そのため、共有持分のみの任意売却はできない可能性が高いです。
3.どのような場合に共有名義物件を任意売却するか
共有名義物件の任意売却はどのような場合に行われることが多いのでしょうか。
典型的なケースを3つ紹介します。
(1)離婚して自宅を売却したい場合
共有物件を任意売却するケースとして多いのが、夫婦の離婚時です。
共働きの夫婦の多くは、ペアローンを組むか収入合算をして住宅ローンを組んでいます。この場合、自宅は夫婦の共有名義になりますが、離婚する場合は夫婦で住んでいた家を手放したいというケースも多いです。
しかし、購入から間もない場合は住宅ローンの残債が多いため、通常の売却方法では売却できずに任意売却を行うことになるケースは少なくありません。
(2)住宅ローンの支払いが困難になった場合
夫婦のどちらかの収入が住宅ローンを組んだ当初よりも大幅に減少して住宅ローンの支払いが困難になり、任意売却を検討するというケースも多いです。
住宅ローンの滞納が長期間続くと、最終的に自宅は競売にかけられてしまいます。任意売却は競売を回避するために有効な手段なので、自宅が競売にかけられる前に任意売却を行う方は多くいらっしゃいます。
(3)名義者の一人が自己破産する場合
共有名義人の一人が自己破産すれば、自己破産者の共有持分は差し押さえられるため、そのまま手続きが進めば競売にかけられることになります。
自己破産者の共有持分を買取ることもできますが、物件を手放したいと考える場合や共有持分を買取る資金が準備できない場合は、競売を回避するために任意売却を行うことになります。
(4)共有名義で住宅ローンが残っている不動産を相続した場合
不動産の名義人が死亡し、相続人全員で不動産を共有名義とするケースもあります。
例えば、親が住んでいた家を子供3人で相続することになった場合などです。
このような場合、家を売却して売却代金を相続財産として分けることもできますが、生まれ育った家の場合は愛着などもあって売却したくないと考えて残しているというケースもあるでしょう。また、地方であれば、なかなか売却先が見つからずに処分できないこともあるかもしれません。
こうした場合に共有名義で不動産を相続することがありますが、住宅ローンの支払いが残っている家の場合、相続人が住宅ローンを支払うことになります。
相続人が住宅ローンの支払いを続けるのが難しい場合、自宅の売却を検討することになるでしょう。しかし、住宅ローンの残債が、自宅の売却価格を上回るオーバーローンの場合は、通常の方法で売却することができません。その場合でも、任意売却という方法なら売却が可能です。
4.共有名義物件を任意売却する流れ
共有名義物件の任意売却をする場合、どのような流れで手続きを進めればよいのでしょうか。任意売却の流れについて説明します。
(1)住宅ローンの残高を確認する
まずは住宅ローンの残高を確認します。
住宅ローンの残高は返済予定表で確認できます。返済予定表が手元にない場合は、住宅ローンの借入れをしている金融機関に残高証明書を発行してもらいましょう。
(2)物件の査定依頼をする
次に、不動産会社に物件の査定を依頼します。
不動産会社によって査定価格は異なるため、複数の会社に依頼をして相場を確認することが大切です。
物件の査定額が住宅ローンの残高を上回っている場合は、任意売却ではなく通常の方法で売却できる可能性があります。
(3)共有名義者に任意売却の同意を得る
共有名義物件を売却する場合、前述したとおり共有名義者全員の同意が必要です。
共有名義者に任意売却をする理由を説明して、同意を得ましょう。
競売を避けるために任意売却を行う場合は、早急に手続きを進める必要があります。
共有名義者の同意がなかなか得られず話し合いが難航している場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
(4)債権者と交渉をする
任意売却を行うためには債権者の合意が必要なので、合意を得るために債権者と交渉を行います。任意売却に精通した不動産会社に依頼すれば、債権者との交渉もスムーズに行ってもらえる可能性が高いです。
(5)物件の売却活動を開始する
債権者から合意を得られたら、売却活動を開始します。
任意売却の売却活動は、通常の売却と同様です。不動産会社の広告や紹介などによって買主を募集し、購入希望者が現れた場合には内見などの対応を行います。
(6)物件の引き渡し
買主が決まれば売買契約を締結します。
売却代金が買主より支払われた後、引き渡しを行い、所有権の転移登記が行われます。
これによって競売は取り下げられ、差押登記も抹消されます。
6.共有名義人の同意が得られない場合の対処法
共有名義の物件を売却するには、共有名義人全員の同意が必要です。しかし、何らかの理由があって共有名義人の同意を得られないケースもあるでしょう。
共有名義人の同意を得られない場合の対処法について説明します。
(1)話し合いをする
まずは当事者同士で話し合うことから始めましょう。
売却するメリットや事情などを明確に説明し、相手に理解してもらえるよう努めます。
当事者同士での話し合いが難しい場合には、弁護士に依頼することも可能です。専門家である第三者から客観的に状況を説明してもらうことで、冷静に話し合いを進めやすくなります。
(2)裁判・調停を行う
話し合いでの解決が難しい場合には、裁判や調停で解決を図ることになります。
裁判や調停を行えば、最終的に何らかの結果が出ますが、時間とお金が必要です。
お互いにわだかまりが残る可能性もあるため、最終手段として考えるべきでしょう。
(3)自分の持ち分を譲渡する
共有名義の物件を売却したくないと考える人がいる場合、その人へ自分の持ち分を譲渡するという選択肢もあります。
他の共有名義人へ自分の持ち分を譲渡すれば、自分は共有名義物件の所有者から外れます。
6.共有名義物件を任意売却する際の注意点
共有名義物件は単独名義物件の任意売却よりも複雑で、いくつか注意すべき点もあります。
任意売却を成功させるためにはスピードが大切なので、あらかじめ共有名義物件における注意点について理解しておきましょう。
(1)共有名義人の同意を得られるよう早めに動く
共有名義の物件を売却するためには共有名義人全員の合意が必須なので、共有名義人の同意を得られるように早めに動くことが大切です。
住宅ローンの支払いが難しくなっている場合、早めに共有名義人に住宅ローンの支払い状況や売却後の残債などを伝えて、相談しましょう。
夫婦の共有名義物件で家賃滞納を一方には内緒にしているという状態の場合、まずは家賃滞納の状態に陥っていることを説明しなければなりません。
相続した物件を共有名義にした場合は、売却について同意を得るだけではなく、共有名義者全員で任意売却後の残債を誰がどのように支払っていくのか話し合う必要があります。
(2)焦って安価で売却しない
住宅ローンの滞納が続き、競売を避けるために任意売却を行う場合、できる限り早く任意売却を完了させたいと考える方も多いのではないでしょうか。離婚や相続でトラブルも抱えている場合は、精神的に辛い状態が続かないように早く売却したいと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、焦るあまり安価で売却することは避けるべきです。
売却価格が安いほど住宅ローンの残債が多く残ることになるため、任意売却しても苦しい経済状況が続く可能性があります。任意売却後にスムーズに新しいスタートを切るためにも、可能な限り高い価格で任意売却を実現させることが望ましいでしょう。
(3)任意売却の実績が豊富な不動産会社を慎重に選ぶ
任意売却を実現するためには、債権者の同意を得る必要があります。債権者の同意をスムーズに得るためには、債権者との交渉や、債権者に提出する配分案の作成などに関する専門的なノウハウや経験が必要となります。そのため、任意売却を行う際は、任意売却の実績を豊富に持つ不動産会社を選ぶことが重要なポイントとなります。
任意売却を扱う不動産会社は多数ありますが、公式サイトに記載している実績を確認し、実際に相談した上で慎重に選ぶことが大切です。
まとめ
共有名義物件は任意売却することは可能ですが、物件全体を売却するには共有名義者全員の同意が必要です。そのため、事前に共有名義者に相談してから検討することが大切です。また、任意売却を行う際は、任意売却の実績を豊富に持つ不動産会社に相談することが重要です。
当社は、任意売却を専門的に扱う不動産会社です。ご相談者様のご希望や状況を丁寧にお伺いした上で、最適な解決方法をご提案します。共有名義物件の任意売却も数多く取り扱ってきましたので、お気軽にご相談ください。
こちらでは、当社での相談から解決までの流れを紹介していますので、参考にしていただければと思います。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉