リースバックで起きやすいトラブル事例と回避策
リースバックは「住み慣れた家に住み続けたい」という希望のある方にとって、メリットの大きい売却方法です。特に、住宅ローンの支払いが困難になったなどの事情により愛着のある住宅を手放さなければならない人にとっては非常に魅力的といえます。
しかしその反面、リースバックはトラブルも多く、万人におすすめできるとはいえません。リースバックを検討する際は、メリットだけでなくデメリットについても理解した上で、利用するか否かを慎重に判断することが大切です。
今回は、リースバックでトラブルになりやすいポイントや回避策について解説します。
目次
1.リースバックとは
リースバックは、住宅の売却後に買主と賃貸借契約を結び、売却した自宅に借主として住み続ける売却方法です。子供の学区や通勤の都合で引っ越しが難しい場合や、相続対策が必要な場合などに検討されます。
(1)リースバックのメリット
リースバックの最大のメリットは、まとまったお金を得られること、今の家に住み続けられることです。また、家の所有権が買主に移ることから、固定資産税やマンションの管理費・修繕積立費がかからなくなります。
加えて、リースバックでは売却後も同じ家に住み続けるため、売却した事実を外部から知られにくいです。経済的な事情で売却に至った際も、プライバシーを確保しやすいといえます。
(2)リースバックのデメリット
リースバックのデメリットとして、毎月、家賃の支払いが発生することが挙げられます。住宅ローンを完済している家の場合、それまで住居費がほとんどかからなかったのに、売却後は毎月賃料を支払わなければならなくなります。
家賃も、相場より高めに設定されることがあります。リースバック物件の家賃は「売却価格に対する年間賃料の金額(利回り)」で決定されるため、高く売るとその分家賃も高くなります。希望の売却価格で無理のない賃料に設定できるかという点には注意が必要です。
(3)オーバーローン状態の物件のリースバック
住宅ローンが残っており、残債が売却価格より大きい状態を、オーバーローン状態といいます。オーバーローン状態の場合、通常は住宅ローンの債権者の売却許可が出ないため、リースバックは利用できません。
しかし、住宅ローンを滞納して競売の期限が迫っている場合、競売より有利に売却することを条件に、特別に許可されることがあります。家が競売にかけられている方にとっては、競売を回避して家に住み続けられる数少ない方法の一つです。
ただし、このケースのリースバックは、高く売って欲しい債権者、収益を確保したいリースバック会社、賃料を抑えたい所有者という三者の落としどころを探るのが難しく、失敗する可能性も高いです。
2.リースバックにおける注意点
リースバックは競売を回避して自宅に住み続けられるというメリットに魅力を感じて、注意点を見逃してしまうことも少なくありません。
リースバックで見逃されやすい主な注意点について説明します。
(1)家賃の支払いが負担になる可能性がある
リースバックでは自宅を売却した後も今までどおり住み続けられますが、毎月家賃を支払わなければなりません。家賃は周辺の家賃相場よりも高く設定されることも多いため、リースバック契約期間中に、家賃の支払いが負担になり、支払いが困難になる可能性もあります。
現実的に毎月の家賃の支払いを無理なく続けられるのか、事前にしっかりシミュレーションすることが大切です。
(2)賃貸期間に制限がある
リースバックで売却した家には永遠に住み続けられるわけではありません。
リースバックでは売却後に賃貸借契約を結びますが、賃貸期間に制限のある定期賃貸借契約が採用されることが多いです。定期賃貸借契約では2~3年で契約が満了になるため、その後は原則として退去しなければなりません。
長く住み続けたい場合は、普通賃貸借契約を締結してくれる購入者を探すか、期間の終了までに買い戻しを行う必要があります。
(3)クーリングオフはできない
リースバックの場合、クーリングオフはできないので契約時には注意が必要です。
クーリングオフは契約締結後も一定期間内であれば契約を解除できるという制度で、消費者を守るために設けられています。
しかし、リースバックでは売却する側は消費者ではないので、クーリングオフを利用することはできません。
3.リースバックでトラブルになりやすいポイント
希望にあった形でリースバック契約を結ぶためには、どのような点でトラブルが発生するのか知っておくことが大切です。リースバックで問題になりやすい典型的な例を見てみましょう。
(1)家が売られ所有者が変わってしまう
リースバックで家を借りている途中に、リースバック会社や投資家が、家を第三者に売却することがあります。通常、賃貸では所有者が変わる際に借主の許可を得る必要はなく、賃貸借契約も新しい所有者が引き継ぐためあまり問題にはなりません。
しかし、リースバックにおいては、以前の貸主と買戻しについての約束をしていることがあります。賃貸借契約自体は引き継いでくれても、買戻しについては伝達されないことがあるため注意してください。
(2)賃貸借契約が更新できない
長く住む予定でリースバックを利用したのに、賃貸借契約を更新できないことがあります。これは、賃貸の契約形態が定期借家契約になっていることを把握できていない場合に起こるトラブルです。
更新を繰り返して長期的に住むことが前提の普通借家契約に対し、定期借家契約は2~3年の契約期間が満了した後は、原則として再契約はしません。リースバック会社からの説明が不十分なケースもありますが、自分でもしっかりと確認することが大切です。
国土交通省が公開している『住宅のリースバックに関するガイドブック』にも、賃貸借契約の期間満了前に、住み続けたい旨を申し出たけれど、再契約を拒否されて退去しなければならなくなったというトラブル事例が掲載されていました。
(3)リースバック契約時の売却価格が安い
リースバックの売却価格は、不動産市場の一般的な相場と比較して安いことが多いです。価格はケースバイケースですが、相場の7割から9割の価格を提示されるのが一般的です。
売却価格だけで評価すると「損をした」と感じる方も多いかもしれません。住宅ローンの残債があり、最低売却価格が決まっている方は注意が必要です。
ただし、前述した通り、リースバックの売却価格と売却後の賃料は比例します。つまり、安く売れば、その分賃料も抑えられるのです。
(4)買戻しができない
家の買戻しを希望していたけれど、蓋を開けてみると様々な理由で買戻しができないことも少なくありません。
例えば、買戻しの約束を契約書に盛り込んでおらず、数年後に買戻しの打診をしても断られるといった事態が考えられます。また、買戻しの価格が契約時に聞いていた価格より高くなっており、断念せざるを得ないケースも散見されます。
家の買戻しについては特にトラブルが多いポイントです。いつまでに、いくらで買戻すかは事前に協議し、具体的に契約書に盛り込んでおきましょう。
(5)不動産業者が倒産した
リースバックを依頼した不動産会社が倒産した場合、住宅の所有権は第三者に移転します。所有権が移転すると契約内容も新所有者に引き継がれますが、更新時に新所有者が内容を変更するケースがあるため注意しましょう。リースバックを利用する際、契約内容に納得して契約したにもかかわらず、新所有者が契約内容を変更した場合、該当物件に住むことが難しくなる可能性があります。
また、前オーナーとの間で「賃料を値上げしない」「買い戻しに応じる」などの口約束をしていた場合も注意が必要です。
口約束のみでは、契約書に記載されていないため無効となります。リースバックを依頼した不動産会社が倒産した場合も、口約束は守られないためトラブルが発生しやすいでしょう。
(6)リースバック後に相続人と争いになる
こちらは売主ではなく、相続人とトラブルになるケースです。例えば、自分の死後に発生する相続に備え、リースバックを利用して家を現金に換えていた場合を考えてみましょう。
所有者としては、相続人が争わないよう分割しやすい現金に換えたつもりでも、必ずしもそれが相続人にとってメリットになるとはいえないのです。相続人が愛着のある実家をそのまま相続したがるかもしれませんし、一般的な売却ではなくリースバックを利用したことにより売却価格が下がったことを不満に思うかもしれません。
このようなトラブルを避けるため、リースバックを利用する前に、配偶者や子ども・兄弟など、将来的に相続人になる可能性が高い人に話を通しておくことをおすすめします。
(7)家賃を値上げされて支払えなくなる
リースバックによって売却した家の賃料は、売却金額を基に決められます。
しかし、周辺の地価が上昇すれば、その影響を受けて値上げをされることもあるでしょう。その結果、家賃を支払えなくなる可能性もあります。その結果、短期間で退去することになり「リースバック契約を結ばずに売却すればよかった」と後悔することもあるでしょう。
(8)買取価額が不当に低い
不動産業者の提示した買取価額が相場よりも不当に低いためにトラブルに発展する場合があります。
リースバック契約の場合、買取業者が自社の利回りを重視するため、通常の売買価格よりも低い価格で取り引きされる傾向にありますが、不当に低い価格を設定されると、贈与とみなされて贈与税が発生する可能性があります。また、住宅ローンの残債を支払えずに破産に追い込まれ、債権者から「不当な財産隠し」として訴えられる可能性もあるでしょう。
(9)高額な諸費用を請求される
リースバック契約の際にかかる主な費用の内訳は、以下のとおりです。
- 印紙税
- 抵当権抹消手続き費用
- 交通費や郵送費など
抵当権抹消費用は、抵当権者ごとにかかります。複数の抵当権が設定されている場合は、その分費用が必要です。
中には測量費用や耐震補強費用、事務手数料などを請求する業者も存在します。リースバックの諸費用についての明確な定めはないため、違反ではありませんが、想定外に高い金額を提示される場合もあるため注意が必要です。
4.リースバックに関するトラブルの回避策
リースバック契約後のこれらのトラブルを回避するためにはどうすればよいのでしょうか。不要な問題を起こさず、理想のリースバック契約をするための注意点について説明します。
(1)複数社に見積もりを依頼し条件を比較する
リースバックを検討するときは、複数のリースバック会社に見積もりを依頼し、条件を比較することをおすすめします。複数社との打ち合わせや交渉を面倒に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、不利な条件で契約しないために重要です。
数社比較すると、良し悪しに関わらず平均から逸脱した条件の見積もりを出してくる会社もあります。このような場合は「なぜその見積もりなのか」を確認してみましょう。明確な根拠を説明できない場合、好条件であっても慎重に判断してください。
(2)契約内容をしっかりと把握する
契約内容を把握しないまま契約すると、後になってから「こんなはずではなかった」と後悔する要因になります。自分の希望がしっかりと盛り込まれているか、内容は具体的かをチェックしましょう。
最低でも、以下の内容については必ず確認してください。
- 定期借家契約か普通借家契約か
- 賃貸借契約期間の長さと更新(再契約)の有無
また、将来、買戻しを希望する場合は、以下の内容についても確認が必要です。
- 再売買の予約に関する条項があるか
- 買戻しが可能な期間について記載があるか
- 買戻しの価格が明記されているか
(3)不動産の相場を把握する
エリアの不動産相場を事前に把握しておくことも大切です。前述した通り、リースバックで売却すると市場相場よりやや安くなることが多いですが、安すぎる価格で売るのは避けなければなりません。
中には、リースバックであることを理由に不当に安い価格で契約を迫る悪質なリースバック会社も存在します。このような場合にきちんと拒否できるよう、だいたいで良いので家の価値を調べておきましょう。
相場を手軽に調べる方法としては、国土交通省の「不動産取引価格情報検索」を利用するとよいでしょう。過去の不動産取引の価格がデータベース化されており、似た条件の売買例を探せます。
時間に余裕がある場合、不動産会社の訪問査定を受けてみるのもよいでしょう。こちらも複数社利用するとより精度の高い結果を得られます。
(4)リースバックに強い不動産会社を通す
ここまで、リースバックに関するトラブルの回避策について説明してきましたが、「自分ですべてやるのはハードルが高い」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。このような場合に頼りになるのが、リースバックに精通した不動産会社です。
リースバックに精通した不動産会社を通すメリットとして、以下のような点が挙げられます。
- 適切な売却価格がわかる
- 買戻しや賃貸契約の期間などの希望に合う売却先を紹介してもらえる
- 悪徳業者に遭うリスクが低くなる
- 契約条項の解説や不明点のアドバイスを受けられる
- 買戻す場合におおむね必要な予算を知ることができる
売買成立時は仲介手数料が発生しますが、自分一人で契約するのが不安な場合は検討してみてください。
(5)長期資金計画を建てる
リースバックの場合、売却時に住宅ローンを一括返済します。ローンの負担はなくなるものの、代わりに家賃を支払う必要があります。住宅ローンという借金を返済し続けるプレッシャーから解放されますが、住宅ローンとは異なり家賃には終わりがありません。
そのため、売却で得た資金や将来の収入、年金などで、家賃を含めた生活費をまかなえるかどうか、長期的な資金計画を立てることが大切です。特に、同居家族がいる場合は、自分が先に亡くなる可能性もあります。将来的に家賃を支払えない可能性がある、家賃の出費が生活を圧迫するのであれば、引っ越しを検討しなければなりません。残された家族が家賃を支払えるかどうか試算しておくとよいでしょう。
5.リースバックをするかべきか迷った場合は?
リースバックをするべきか迷った場合はどのようにすればよいのでしょうか。
(1)家族とよく話し合う
リースバックをするかべきか迷った場合は、まず家族とよく話し合いましょう。
リースバックは、将来相続人となる人全員に関わることです。そのため、将来的なトラブルを回避するためにも、相続人になる可能性がある配偶者、子ども、兄弟がいる場合は、全員の意見を聞いておくことも大切なポイントとなります。
(2)信頼できる専門家に相談する
家族だけではなく信頼できる専門家にも相談するとよいでしょう。専門家に、ご自身の状況や希望などを詳しく伝えて相談することで、リースバックよりも良い解決策を提案してもらえる可能性もあります。
リースバックを選択して後悔しないためにも、専門家からアドバイスを受けることは重要です。
相談する際は、リースバックの実績が多い不動産業者を選ぶようにしましょう。
6.リースバック契約を巡るトラブルに遭った場合の対処法と相談先
リースバックでトラブルに遭ってしまった場合の対処法と相談先について説明します。
(1)トラブルに遭った場合は退去か解約をする
一つめの方法は、退去して、リースバック契約を終了させてしまうことです。ほとんどの場合、賃借人が希望すればいつでも退去できる旨が契約書に記載されているでしょう。
また、やむを得ない事情がある場合は解約もできます。転勤や、家賃を支払えなくなったなどの理由であれば、業者の同意があれば解約可能です。
ただし、自己都合と判断される理由であれば、違約金が発生する可能性もあるため、注意しましょう。
(2)トラブルに遭った場合の相談先
リースバック業者の中には、悪質なところもあります。「強制退去させられた」「法外に高い家賃を請求された」などのトラブルに遭ったら、消費生活センターに相談しましょう。消費者ホットライン(電話番号:188)に電話をするか、最寄りの相談窓口へ行けば、相談員に受け付けてもらえます。
参考URL:全国の消費生活センター等(国民生活センター公式サイト)
7.まとめ
リースバックは、メリットの大きい反面トラブル例も多く報告されています。契約してから「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、事前に契約内容を把握しておきましょう。
特に、賃貸借契約の期間と買戻しの条件は問題になりやすいです。「いつまで住めるのか」「いくらで、いつまでなら買い戻せるか」という点は必ず契約書に定めておくことが大切です。
リースバック契約に関する不安をお持ちの場合は、リースバックの専門知識を持つ不動産会社のサポートを受けるとよいでしょう。
当社は、多くのリースバックや任意売却を手掛けてきた住宅ローン滞納問題を専門的に扱う不動産会社です。ご相談者様の状況やご希望を丁寧にお伺いした上で、最適な解決方法をご提案します。リースバック契約に関するご相談にも数多く対応しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一