任意売却で自宅が売れない場合はどうなる?売れない理由も解説
任意売却で自宅を売りに出しても、高値に設定していたり、自宅の条件や売却のタイミングが悪かったりすると、買い手がなかなか見つかりません。
任意売却で買い手が見つからなければ、自宅は競売にかけられてしまいます。
任意売却を成功させるためには、任意売却の依頼先選びが重要なポイントです。
この記事では、任意売却で自宅が売れない理由や対策などを詳しく解説します。
目次
1.任意売却で自宅が売れない場合はどうなる?
任意売却で自宅を売りに出しても売れない場合、その後はどうなるのでしょうか。
(1)任意売却は競売と同時進行することがほとんど
前提として、任意売却は競売と同時進行することがほとんどです。というのも、任意売却は3か月から4か月程度ローンを滞納し、保証会社による代位弁済が行われた後しか、本格的な交渉を始められないからです。
債権者は確実に債権を回収するため、滞納時は担保としている自宅を競売にかけます。
任意売却の交渉を始めたからといって、競売の手続きが停止するわけではありません。
代位弁済の後2か月から3か月ほどで、裁判所からの「競売開始決定通知」が到着します。
競売で売却される前に任意売却を完了させる必要があり、時間との勝負です。
(2)売れない場合は競売で売却される
任意売却は競売と同時進行するため、競売の取り下げ期限(開札期日の前日)が任意売却のタイムリミットです。
このタイミングまでに任意売却を完了できなかった場合は強制終了となります。
競売で入札が入っていた場合は、その後裁判所からの売却許可決定が出され、買受人が代金を納付した後、正式に所有権が移転されます。
(3)売却後は期限までの立ち退きが必要
自宅が競売で売却された後は、期限までの立ち退きが必要となります。
家を明け渡せない場合、強制執行によって強制的に退去させられることもあります。
立ち退きの強制執行が行われると、家財が運び出され、鍵も換えられてしまいます。
引越し先が見つかっていないなど、事情があっても考慮してもらうことはできません。
2.任意売却で自宅が売れない理由
なぜ任意売却を行ったにも関わらず、自宅が売れないという事態が発生するのでしょうか。
任意売却における典型的な売れない理由を説明します。
(1)そもそも任意売却物件は買主に不利な物件
そもそも、任意売却物件は通常の物件と比べて買主に不利な物件です。
特に、売買契約に盛り込まれる下記の二つの特約は、敬遠されやすいポイントといえます。
①契約不適合責任の免責特約
契約不適合責任の免責特約は、売却後に事前説明と異なる点や瑕疵が見つかった場合でも、買主は売主の責任を追及できない旨の特約です。
任意売却の売主は経済的に困窮しており、万一の際も賠償が難しいため、売買契約にはこの特約を盛り込みます。
②停止条件付の特約
停止条件付の特約は、「債権者の同意があってはじめて売買契約が有効となる」旨の特約です。
任意売却では、最終的な売却価格や配分案(売却代金の内訳)に対して債権者の同意が得られず、売却できないケースがしばしばあります。
そのため、売主を解約のペナルティから保護するためにこの特約が盛り込まれますが、買主からすると無条件解約にあたり、リスクの大きい特約です。
不利な条件が多い分、売却の際には、物件の魅力を効果的にアピールする、債権者との交渉の上で価格を抑えるなどの工夫が必要となります。
(2)売出価格が相場より高いと売れにくい
任意売却に限った話ではありませんが、近隣の不動産相場より高い売出価格を設定すると、よほど条件のよい物件以外は売れにくくなります。
任意売却では、売却代金を債務の返済に充てるため「少しでも高く売りたい」という思いが先走り、高めの価格を設定してしまうことがあります。
例えば、周辺の不動産相場が4000万円だった場合、6000万円の売出価格にしていれば割高に感じられます。「駅が近い」「築年数が浅い」など、よほどの良い条件がない限りは周辺相場より高い価格で売却することは難しいでしょう。
価格が高すぎて売れなければ本末転倒です。売出価格の決定に関しては債権者の意向が優先されますが、適正価格に設定できるよう、自分でも相場を調査しておきましょう。
(3)築年数や立地など条件面で需要が低い場合も
築年数や立地など、物件のさまざまな条件から、需要が低いケースもあります。
例えば、公共交通機関の利用が活発なエリアで、駅から徒歩圏内に位置していない物件などは不利といえます。
一般的に、不動産で需要が高いとされる条件は、以下のようなものです。
- 築年数が浅い
- 駅から近い
- エリアの公共交通機関が整っている
- 買い物がしやすい環境にある
- 学校が近い
ただし、どのような物件を探しているのかという条件は個人差があります。
一般的に条件が悪いとされるような物件でも、需要のある層に適切にアピールできれば売却の可能性は高まります。
例えば、築年数の経った家の場合、古民家やリフォーム前提の住宅を探している人になら一定の需要が見込めます。「いかにして売るか」は、不動産会社の担当者の腕の見せ所です。
(4)売れやすさは売り出しのタイミングにも左右される
住宅自体に問題がない場合でも、売り出しのタイミングによって売れない場合があります。というのも、不動産市場には季節やトレンドによって需要の波があるからです。
不動産市場は、賃貸・売買ともに夏は閑散期で、冬から春にかけて人の流れが増加する時期に取引が盛んになります。
また、古民家が流行ったり、マンションの需要が増加したり、DIYの流行によりリフォーム前提の戸建てが人気になるなど、時流によっても需要は変化します。
対策のしにくいポイントではありますが、なるべく需要の高まるシーズンに重なるよう、売却期間を長く取れれば理想的といえます。
(5)依頼相手に問題がある場合も
「売買の仲介なんてどこに頼んでも同じでは」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは誤りです。
任意売却は通常の不動産売却とは異なります。
金融機関との交渉が必要なことや、決められた期限までに物件を売却しなければならないことなど、専門的な知識や経験が必要になります。
そのため、売却を依頼した不動産会社が任意売却に精通していなければ、スムーズに手続きを進められずに売却期間が短くなってしまう可能性や、期限までに売却できないリスクがあります。
また、任意売却業界には悪徳業者も多く潜んでいます。
本来払う必要のない金銭を搾取される、難しい物件には手を付けず、競売の期日まで放置されるなど、多くの被害が報告されています。
悪徳業者も依頼してしまうと、自宅が競売で売られるのみならず、損害まで抱えることになりかねません。
3.任意売却自体ができないケース
実は、住宅ローンの滞納をしていれば、どんなケースでも任意売却ができるというわけではありません。
「任意売却で自宅が売れない理由」には、任意売却ができる条件を満たしていないというケースもあります。
どのような場合に任意売却ができないか具体的に説明します。
(1)債権者全員の同意が得られない場合
債権者が売却に同意し、抵当権を解除しなければ、任意売却はできません。
債権者が複数いる場合、その全員の許可が必要なため、事態はより煩雑になります。
特に、住宅ローンだけでなく税金の滞納による抵当権が二番以降に設定されている場合、交渉が難航することが多いです。
許可が得られるかは自治体の方針次第ですが、滞納している税金を全額支払わなければ抵当権は解除しないなど、強硬な対応をされることもあります。
(2)共同名義人が売却に同意しない場合
複数の所有者がいる共有名義の住宅の場合、共有者全員の同意がなければ売却できません。
夫婦で購入して持分を設定しているマイホームなどが代表的です。
所有者の1人だけが任意売却を進めても、もう1人が反対すれば売却はできません。
共有名義の住宅は、所有者全員が足並みを揃えて準備を進めることが重要です。
(3)保証会社による代位返済が行われていない場合
任意売却の交渉は、ローンの貸主である金融機関ではなく、代位弁済をした保証会社に対して行うことが多いです。
金融機関に交渉しても、まず同意は得られないからです。
滞納が発生した際、金融機関は保証会社との契約により貸付金を全額回収できるため、手間をかけて任意売却に協力する必要がないのです。
保証会社が代位弁済を行うには、ローンの滞納からおおむね4か月から7か月の期間が必要となります。
ただし、不動産会社への任意売却の相談自体は可能なので、早めに依頼先を探しておきましょう。
4.任意売却で自宅が売れない場合の改善策
任意売却で自宅が売れない場合、競売を避けるには早急に対策する必要があります。
任意売却で自宅が売れない場合にできる改善策についてみていきましょう。
(1)売り出し価格を見直す
任意売却で自宅を売り出してもなかなか買い手が見つからない場合、売り出し価格が適正ではない可能性があります。
周辺相場と比較し、高すぎる価格で売り出しをしていれば買い手はみつかりにくいです。
任意売却は、金融機関や裁判所で定められた期間内に売却を成功させなければならず、失敗すれば自宅を競売にかけられます。
そのため、思うように買い手が見つからない場合は、早急に売り出し価格を見直すことが大切です。
ただし、売り出し価格の見直しは勝手に行うことはできません。販売価格の決定は、債権者である金融機関に決定権があります。
不動産会社に価格の適正性を再度確認し、金融機関と交渉してもらいましょう。
(2)綺麗に清掃して内見を積極的に行う
不動産の購入は、内見で実際に家の状態などを確認してから決めることが一般的です。
購入希望者は、内見によって自分達の生活している姿をイメージするものです。
そのため、内見に消極的ではなかなか買い手がみつかりません。
内見は積極的に行い、内見希望者とスケジュールが合わせられるようにしておきましょう。
ただし、内見時に部屋や家の周りが汚いと、購入希望者に良い印象を与えることができません。
リフォームまでする必要はありませんが、綺麗に清掃しておき、「購入したいと」思ってもらえるように丁寧に対応しましょう。
(3)不動産会社の変更を検討する
任意売却には専門的な知識や経験が必要になるため、仲介を依頼する不動産会社は任意売却に精通した会社を選ぶべきです。
「街の不動産屋さんにお願いした」「大手不動産会社だから大丈夫」といったケースでは、任意売却の知識や実績が少ない可能性があります。
任意売却は金融機関と交渉しながらスムーズに売却手続きを進める必要があるため、任意売却の実績が多い不動産会社を選びましょう。
任意売却を成功させるための依頼先の選び方については、次項で詳しく解説します。
5.任意売却を成功のための依頼先の選び方
任意売却を成功させるために重要なのが、任意売却に精通した不動産会社を選ぶことです。
その理由について説明します。
(1)任意売却の売却活動には専門的な知識が不可欠
まず、任意売却の仲介には、専門的な知識と経験が不可欠です。
任意売却自体は通常の不動産会社でも扱えますが、ノウハウが一般的な不動産売買や賃貸に偏っているため、専門的なスキルを持っていません。
前述した通り、任意売却物件を一般市場で売るためには、いくつものハードルが存在します。
不利となり得る点を熟知し、適切な対策を取らなければ、任意売却を成功に導くのは難しいのです。
(2)債権者との交渉はプロでなければ難しい
任意売却において、債権者の交渉・説得は成功の鍵を握る重大な仕事です。
債権者が納得できる配分案(売却代金の内訳)を提示し、抵当権の解除を頼むには、債権者の利益との落としどころを探る交渉技術が不可欠です。
任意売却の交渉は経験がものを言う部分も大きいため、依頼先選びでは、経験や実績を特に重視する必要があります。
(3)売却後の残債処理まで相談できる
任意売却を専門的に扱う会社であれば、売却完了後の残債処理まであわせて相談できます。
任意売却の目的は家を売ることではなく、家の売却による債務の減少と、その先にある生活の再建です。残債の処理までサポートできなければ十分とはいえません。
専門会社であれば法律事務所と連携していることも多く、売却後の債権者との交渉や、必要に応じて自己破産の手続きなどもサポートしてくれます。
6.任意売却で自宅の買い手がつかいない場合のQ&A
任意売却で自宅の買い手がつかない理由などについて解説してきましたが、まだ疑問や不安に思っている部分が解決されていない方もいるでしょう。
ここでは、任意売却で自宅の買い手がつかない場合によくある疑問と、その疑問に対する回答をご紹介します。
自宅が売れない場合、次のステップは何ですか?
任意売却で自宅が売れない場合、裁判所での手続きが進められて競売にかけられます。
競売では、市場の5割から7割の金額で売却されます。
競売でも買い手がつかない場合は取り消しになり、特別売却として先着順で買い手を決めます。
任意売却が長引くとどうなりますか?
任意売却は長引くほど不利になる傾向にあります。
売却にかかる期間が長引くほど利息は積み重なり、返済が増加します。
また、売却が完了しなければ競売手続きが開始されてしまいます。
競売が始まれば選択肢が狭まるため、任意売却はスピード感が重要視されます。
任意売却中も自宅に住み続けることはできますか?
任意売却中も自宅に住み続けることは可能です。
退去期限は、売買契約の決済日までになります。
決済日には所有権が買い手に移転するため、それまでに自宅を明け渡せるように準備しておきましょう。
任意売却中のローン支払いはどうなりますか?
任意売却している間も住宅ローンの支払い義務はあります。
ただし、期限の利益を喪失している場合は、住宅ローンを分割で支払う権利が失われています。
そのため、住宅ローンの分割払いの義務は無くなり、毎月の返済が引き落とされるようなことはありません。
しかし、期限の利益を喪失すれば一括返済を求められるようになるので、注意が必要です。
家を高く売るためのコツやヒントはありますか?
自宅を高く売るためには、適正な価格で売り出すことが大切です。
また、内見を積極的に行い、内見の際には「この家に住みたい」と思ってもらえるように綺麗に掃除をしておく必要があるでしょう。
任意売却で高く売るためには、これまでに解説してきた通り、仲介を依頼する不動産会社の手腕も問われます。
任意売却は通常の売却とは異なる手順で売却まで進むため、任意売却に精通した不動産会社に依頼することを推奨します。
7.実際のご相談と解決事例
「一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室」に寄せられた実際の相談内容と解決事例をご紹介します。
(1)離婚により住まなくなった連帯債務の自宅を任意売却した事例
夫婦の連帯債務で住宅ローンを支払っていた自宅を離婚で手放したいと考えたが、オーバーローン(市場価格<残債)で通常売却ができないという相談を30代男性からいただきました。
元奥様が連帯債務者という点で離婚後でも夫婦の協力が必要になる事例だったため、当社から元奥様に任意売却のメリット・デメリットを説明し、納得していただけました。
売却活動を開始してからは、3ヶ月で買い手が見つかって無事に売却完了しています。
離婚にともなって、任意売却したいというご相談者の方は、年々増えてきています。
住宅ローンを滞納して放置すれば競売になるため、残債務が多くなってしまいます。競売のデメリット及び、任意売却のメリットを説明することで、任意売却に納得いただけるケースは多いです。
(2)収益マンションを購入したが毎月赤字のため、任意売却した実例
銀行からの営業で収益マンションを2物件購入した男性からの相談です。
家賃保証があるので毎月の支払いと収入は相殺され、ローン完済後は収益になる考えでしたが、家賃保証の会社から賃料減額の改定を受けて支払いの方が上回り、赤字が続くようになったので売却を決意したそうです。
しかし、ローンを完済できる金額では売れないので任意売却を行い、最終的には収益マンションを2つとも売却でき、残った残債を少しずつ支払いながら生活されています。
収益マンションを高値で買ってしまい、売りたくても売れないという相談は後を絶ちません。
その中でも、収益を得るために購入したはずが、毎月赤字になっているという相談が圧倒的に多いです。 このような場合、売却して得たお金で完済できれば何の問題もないのですが、完済できないケースの方が多いです。
任意売却を行うことで、オーバーローンの不動産を売却できれば債務の圧縮につながります。
(3)1年以上売却活動しても売れなかった家を任意売却で成功させた実例
離婚して誰も住まなくなった家の売却活動を1年以上行っているものの、売却できそうにないので任意売却をしたいという50代男性からの相談です。
地元の不動産会社で住宅ローンを完済できる金額で売却活動をしていたものの内見も少ないので任意売却を検討したいという相談でした。
任意売却は市場相場程度で売却が可能ですが、売却には債権者(借入先の銀行)と交渉する必要があり、個人で任意売却を行うことはできません。
任意売却のデメリットを伝えして理解いただいた上で任意売却を行うと、 買手はすぐ見つかって売却に成功しました。
8.まとめ
任意売却物件は、買主にとって懸念点が多い物件です。また、築年数などの各種条件や市場の需要の変化に影響され、ときにはなかなか売れないこともあります。
難しい物件を素早く売却するには、任意売却に精通した不動産会社の助けが不可欠です。任意売却の経験を豊富に持つ不動産会社であれば各種交渉や手続きもスムーズなので、実績をしっかり確認した上で、依頼先を選択することをおすすめします。
当社は、多くの任意売却を手掛けてきた住宅ローン滞納問題を専門的に扱う不動産会社です。3,000件以上の実績に基づく知識と交渉力で、任意売却だけではなく、その先の生活再建まで見据え、最適な解決方法をご提案しますので、ぜひお気軽にご相談ください。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉