任意売却の悪徳業者の特徴は?被害を回避するための対策も解説
住宅ローンを滞納してしまい、家が競売にかけられそうになっている方は、最後の望みをかけて任意売却を検討し、不動産会社に相談します。
しかし、不動産会社の中には、相談者の心理につけ込み、不当に多額の金銭を搾取しようとする悪徳業者も存在します。任意売却を検討する際は、悪徳業者を避け、いかに良いパートナーを選ぶかが重要です。
この記事では、任意売却に潜む悪徳業者の実態や特徴、具体的な被害の内容などを解説します。
1.任意売却とは
まずは、任意売却とはどのような売却方法なのか簡単に説明します。
任意売却は、債務(主に住宅ローン)を払えなくなった際に、担保となっているオーバーローンの物件を、債権者など各関係者の許可・協力を得て売却する方法です。
通常の売却であれば債権者の同意は不要ですが、任意売却では「売却代金より残債のほうが大きい」ことが前提のため、売却に同意が必要で、売却後も債務が残ることが特徴です。そのため、債務整理としての性質を持つ売却方法といえます。
2.任意売却業界に悪徳業者がはびこる理由
任意売却の業界には悪徳業者が少なくありません。これには大きく二つの理由があります。
(1)悪徳業者が付け入りやすい
まず、任意売却を検討する方は、経済的に困窮している方がほとんどです。なかには、住宅ローン以外にも融資を受けており、多重債務状態に陥っている方もいます。到底許されないことですが、経済的にも精神的にも追い詰められて余裕のない方は、悪徳業者にとって付け入りやすい相手なのです。
(2)公開情報からターゲットを見つけやすい
競売の公開情報からターゲットを見つけやすいことも任意売却の業界に悪徳業者がはびこる理由の一つです。
不動産の競売では、BIT(不動産競売物件情報サイト)や新聞などで、競売物件の情報が一般公開されています。このような情報をもとに、悪徳業者に狙われることもあります。
3.任意売却の悪徳業者に依頼した場合の被害
悪徳業者に依頼するとどのような被害を受ける可能性があるのでしょうか。具体的な被害について説明します。
(1)相談を放置されいたずらに期間を浪費する
悪徳業者への依頼は、時間やお金など、さまざまな損失に繋がります。
悪徳業者によく見られる特徴の一つとして、都合の悪い依頼は放置するということが挙げられます。例えば、難度の高い案件や手間のかかる案件は、競売になるまで放置することがあります。
依頼者には「なかなか買い手が見つからない」「交渉が難航している」などと伝えますが、裏ではまったく進めていないケースも珍しくありません。
長期間案件を放置されると、途中で「怪しい」と気付き、契約を解除しても、次に依頼する不動産会社が使える期間が短くなります。任意売却は期限が決まっている分、時間との戦いになります。そのため、期間の浪費は大きな痛手といえます。
(2)自宅を相場より大幅に安く買い取られる
任意売却では、不動産会社が買い手となり、物件を買い取ることもあります。それ自体は問題ありませんが、悪徳業者の場合、自宅を相場より大幅に安く買い取ることがあるため注意が必要です。
よく見られる手口として、競売の期限が迫ったタイミングでの買い取りの申し出があります。「競売で売られるよりはまし」と安値での売却に同意してしまうと、大きな損失を被ることになります。
また、悪徳な買取業者の提示する価格は相場より大幅に安いため、債権者の同意が得られないことも多いです。その結果、期限に間に合わず競売にかけられてしまうこともあります。
(3)お金をだまし取られる
悪徳業者に依頼してお金をだまし取られるというのも、よくある被害例です。
「売却した金額を実際よりも安く伝えて差額を抜き取る」「売却代金を預かり、そのまま連絡が取れなくなる」といった悪質な詐欺の被害もみられます。
通常、不動産売買の決済は、関係者が一堂に会して決済から所有権の移転まで行います。決済の場にいれば被害に気付くことができます。「面倒ですから我々が代理人として代わりに出席します」などという発言には注意が必要です。
4.任意売却に潜む悪徳業者の特徴
悪徳業者を見抜き、被害に遭わないようにするためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。悪徳業者にみられる言動の特徴について説明します。
(1)高額な引っ越し代で相談者を釣ろうとする
任意売却の悪徳業者によくみられる特徴の一つとして、引っ越し代を利用して依頼者を釣ろうとすることが挙げられます。「当社に依頼すれば確実に引越し費用を確保できます」「引っ越し代100万円獲得できます」などが、典型的なうたい文句です。
確かに、任意売却では売却代金の一部から引越し費用を捻出できることがあります。しかし、これには債権者の同意が必要であり、許可を得られないことも多いです。
そのため、まっとうな不動産会社は依頼時点では引越し費用を確約しません。また、引越し費用が出る場合でも30万円程度が限界です。
(2)任意売却の情報公開後に訪問してくる
BIT(不動産競売物件情報サイト)や新聞などに情報が公開された後に、自宅に訪問してくるのも悪徳業者である可能性が高いです。
訪問業者はマナーが悪いことも多く、「家の敷地内で大声を出して家主を呼びつける」「ライバルを妨害するために表札を盗む」「競売物件としてチラシを撒く」「近隣の方に情報を聞きまわる」などという迷惑行為に及ぶこともあります。
このような業者には、信頼して家を預けることはできません。相談先を選ぶ際は、必ず事務所を訪問して実態を確認するようにしましょう。
(3)仲介手数料以外の費用を請求する
仲介手数料以外の費用を請求してくるのも、悪徳業者のよくある特徴です。
原則として、任意売却で所有者が支払うのは仲介手数料のみです。仲介手数料以外の費用を請求してはならないと宅地建物取引業法で定められています。仲介手数料も売却時の代金から支払う形になるため、依頼の時点で支払うお金はありません。
しかし、悪徳業者はさまざまな名目で違法に費用を請求してきます。以下のような名目の費用請求には要注意です。
- コンサルタント料
- 相談料
- 任意売却促進負担金
- 顧問料
- 着手金
このような名目の費用を請求する業者や、着手の時点でお金を要求する業者は、悪徳業者である可能性が非常に高いといえます。
(4)専任媒介・専属専任媒介での契約を強要する
専任媒介・専属専任媒介での契約を強要する業者にも警戒した方がよいでしょう。
不動産会社が依頼者と結ぶ媒介契約には、複数社に媒介を依頼できる一般媒介契約もあります。住宅金融支援機構など一部の金融機関を除き、債権者は媒介契約の形態にこだわらないのが一般的です。
しかし、「一般媒介では任意売却はできない」など、自社の利益を優先して依頼者を囲い込もうとする不動産会社も存在します。こうした行為は「売れる確率を高めたい」という依頼者の希望を無視することに他なりません。
(5)依頼者に不利な情報を話さない
都合の良いことのみを伝えて契約を取り付けようとするのも悪徳業者の特徴です。不動産会社からのうますぎる話には警戒してください。聞いていた話と実態が異なると、思わぬ不利益を被ることがあります。
例えば、相談時に「絶対に任意売却できます」と言われれば、依頼者はその言葉を信じて待つことになりますし、引っ越し代を約束されていればその分をあてにするでしょう。あとになって「やっぱりできませんでした」では困るのです。
まっとうな会社であれば、任意売却を必ず実現できる保証がないことや引っ越し代の交渉が失敗するリスクなど、不利な点についてもきちんと説明します。
5.任意売却の相談先を選ぶポイント
ここまで説明した内容を踏まえた上で、任意売却の相談先をどのように選べば良いのか解説します。
(1)任意売却の実績の有無
相談先選びで重要なポイントの一つが、任意売却の実績の有無です。実績の豊富な会社であれば、相応にノウハウを確立しており、何をどのように進めればよいか熟知しています。金融機関や債権回収会社にも顔が利くため、交渉もスムーズに進みます。
悪徳業者の中には、まともに任意売却を進めない会社も多いため、知識・実績ともに不足していることも珍しくありません。複数社に相談し、比較しながら経験を評価してみましょう。
(2)司法書士・弁護士と連携しているか
法律家との連携の有無も重要なポイントです。というのも、任意売却の後には残債の整理が待っているためです。
任意売却は売却後も残債が出ることから「売れば終わり」とはいきません。債務整理のプロと連携している会社であれば、売却後の相談にも乗ってくれます。
悪徳業者は一つの仕事に手間をかけたがりませんので、残債の処理まで対応することはありません。自己破産を検討しているのであれば、信頼できる弁護士を紹介してくれるのか等、このあたりを詳しく聞いてみて、知識の有無を確認してみるのも良い方法です。
(3)希望に合わせ任意売却以外の提案が可能か
ここまで任意売却に関する説明をしてきましたが、実は状況によっては、任意売却以外の方法が適していることもあります。
特に今の家に住み続けたいという希望をお持ちの方には、任意売却ではなくリースバックや親子間売買、住宅ローン特則を利用した個人再生などが適している場合もあります。さまざまな選択肢から最適な方法を提案できる不動産会社を選ぶことをおすすめします。
逆に、状況の把握もそこそこに「任意売却しか手はない」と言い切る業者は、知識が浅いか自社の利益のみを重視している可能性が高いです。
6.まとめ
任意売却業界には悪徳業者が存在します。悪徳業者に依頼すると、金銭をだまし取られる、貴重な時間を浪費させられるなど、さまざまな被害に遭うことが予想されます。
悪徳業者を回避するには、今回紹介した悪徳業者の特徴を参考に、不審点がないかしっかり確認しましょう。その上で、複数の専門会社を比較しながら、慎重に選ぶことが大切です。
任意売却を依頼する不動産会社を選ぶ際のポイントや注意点については、こちらの記事にまとめましたので、参考にしていただければと思います。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一