住宅ローンの負担による老後破産を防ぐための対処法を解説
定年退職を迎えて年金生活が始まれば、これまでと生活の収支が変わってきます。
老後にも住宅ローンの支払いが残っている場合、返済に圧迫されて老後破産に追い込まれてしまうようなケースも少なくありません。
今回は、住宅ローンが原因で老後破産した場合のリスク、住宅ローンのために老後破産しそうな場合の相談先、自宅に住み続けながら老後破産を避ける方法などについて解説します。
1.なぜ老後破産に至るのか?
まずは老後破産に至る原因についてみていきましょう。
(1)老後の収入と支出について
総務省の統計によれば、2023年の65歳以上における夫婦のみの無職世帯の1カ月の平均実収入は244,580円、平均支出合計は250,959円となっています。
つまり、65歳以上の世帯は平均的に家計が赤字になっており、貯金を切り崩しながら生活する必要があることが分かります。
65歳以上における夫婦のみの無職世帯の1カ月の平均支出の内訳は以下の通りです。
食料 | 72,930円 |
---|---|
住居 | 16,827円 |
光熱・水道 | 22,422円 |
日用品(家具・家事用品・衣類) | 15,636円 |
保健医療 | 16,879円 |
交通・通信 | 30,729円 |
教育娯楽 | 24,690円 |
社会保険料 | 18,435円 |
その他の消費支出 | 32,411円 |
合計 | 250,959円 |
参考:総務省統計局「家計調査」
上記の表の住居費用は、家賃や設備修繕費・維持費用を指します。
住宅ローンの返済額は含まれていないため、65歳を過ぎて住宅ローンの返済が残っている場合は、さらに支出が多くなります。
(2)老後破産を招く原因
老後破産では住宅ローンが大きな原因になることが多いですが、それ以外にもさまざまな要因が関係しています。老後破産を招く要素として、以下のようなことが挙げられます。
①住宅ローンの負担が大きい
現役として働いている時には多少無理な住宅ローンを組んでも返済できていたかもしれませんが、定年後も住宅ローンの返済が終わらない場合は老後破産を招きやすくなります。
老後の収入と支出で説明したように、65歳以降になると平均的に家計が赤字になる傾向にあります。そこに住宅ローンの返済が加われば、生活は困窮するでしょう。
定年後も住宅ローンの返済が終わらないような返済計画は、最初からローン計画に無理があると考えられます。
②退職金・年金が少ない
予想していたよりも退職金・年金が少なかったために住宅ローンの返済が困難になり、老後破産に至るケースも多いです。
住宅ローンを組んだ当初は会社の業績が良かったとしても、定年を迎える頃に業績が悪くなっていれば、退職金が削られて予定よりも得られる金額が少なくなってしまう場合があります。
また、住宅ローンを組んだ後に転職を繰り返すことで年収条件が大きく変わり、返済が困難になっていくパターンもあるでしょう。退職金や年金に頼った住宅ローンの返済計画を立てることは危険です。
③想定外の医療費の支出
年齢を重ねると体力や免疫力の低下により、病院に通院する機会も増えるでしょう。病気や怪我で入院・手術するような機会が増えれば、医療費の支出は増加します。
保険制度を利用すれば医療費は抑えられるものの、保険適用外の治療を受けた場合、高額な医療費が発生します。このような想定外の医療費の支出が生活を圧迫し、老後破産を招く原因になることもあります。
④自宅の修繕費が発生する
住宅ローンを組んで購入した家に何十年も住んでいれば、給湯や浴室、トイレなどの設備が劣化して修繕が必要になるでしょう。
戸建ての場合、長年風や雨にさらされた外壁や屋根が老朽化するため、修繕や補強を行わなければなりません。こうした修繕にかかる費用は決して安いものではないため、生活を圧迫する原因になります。
⑤住宅ローンの支払い中に生活保護を受けることはできない
老後に出費がかさんで生活が困窮するような場面になれば、生活保護などの福祉サービスを受ければよいと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、住宅ローンの支払いを続けている状態では生活保護を受けることができません。そのため、自宅を手放して生活の立て直しを図らなければならないケースもあります。
2.住宅ローンが原因で自己破産した場合のリスク
自己破産をすれば、生活を圧迫していた住宅ローンなどの借金が免責されるため、生活の再建を図ることができます。
しかし、自己破産をするには多くのリスクがあることも知っておかなければなりません。
住宅ローンが原因で自己破産をすることには、以下のようなリスクがあります。
(1)自宅が競売にかけられる
自己破産をすれば、借金は全額免除されます。住宅ローンの残債も免責対象になりますが、その代わりに自宅は競売にかけられます。住宅ローンの残った家だけを債務手続きの対象から外すということはできません。
個人再生なら住宅ローンはそのまま支払い続けられるので自宅に住み続けることはできますが、住宅ローンの返済で生活が困窮している場合、個人再生を利用しても状況が改善する可能性は低いでしょう。
(2)所有する財産が処分される
自己破産の手続きでは、所有する財産が換価・処分されることになります。
対象となる財産は、不動産や車、株などの有価証券、退職金の一部、生命保険などが挙げられます。99万円以上の現金も対象になります。財産は全て換価されて債権者に分配されます。
(3)新規借入・クレジットカードの作成ができない
自己破産の手続きを行えば、信用情報機関に事故記録が登録されます。
事故記録があれば、金融機関やクレジットカード会社から「返済能力がない」と判断されるため、新規借入やクレジットカードの作成ができなくなります。いわゆる「ブラックリストに載る」と呼ばれる状態になるのです。
(4)連帯保証人に迷惑をかける
住宅ローンを含め、連帯保証人付きの借金がある場合、破産手続をすれば連帯保証人に迷惑をかけることになります。
破産手続をした本人は借金が免責されますが、手続きをしていない連帯保証人は債務返済の義務が無くなるわけではありません。
そのため、連帯保証人は代わりに返済を請求されることになり、場合によっては連帯保証人も破産手続をしなければならないこともあるでしょう。
3.住宅ローンのために老後破産しそうな場合の相談先
定年退職後も住宅ローンの返済が残り、老後破産しそうになった場合の相談先を紹介します。
(1)金融機関
住宅ローンの支払いが困難で滞納しそうな場合は、滞納する前に住宅ローン契約を結んだ金融機関に相談しましょう。
金融機関に相談することで、リスケジュールによる返済計画の見直しを提案してもらえる可能性があります。ただし、住宅ローンの返済は継続するので、根本的な解決にはならない可能性があります。
(2)弁護士
自己破産など法的な破産手続を検討する場合は、弁護士に相談しましょう。
個人で手続きを進めることも可能ですが、知識がなければ手間と時間がかかります。書類の不備などで再提出が必要になるなどして破産手続開始までの時間がかかってしまうと、さらに生活が圧迫されてしまうでしょう。
スムーズに手続きを進めるには、弁護士のサポートが有効といえます。
(3)不動産会社
住宅ローンの返済が困難になった自宅に住み続けるよりも、売却した方がスムーズに生活を立て直せるケースもあります。
不動産会社に相談すれば、自宅の売却価格の相場なども知ることが可能です。住宅ローンの残債が自宅の売却価格を上回るオーバーローンの状態の場合は、手持ちの資金で住宅ローンを完済できないと抵当権を外せないため、一般的な方法で売却することはできません。その場合は、任意売却という方法を検討するとよいでしょう。任意売却を検討する際は、専門的なノウハウが必要になるので、任意売却の経験が豊富な不動産会社に相談してください。
4.自宅に住み続けながら老後破産を避ける方法
老後破産を避けて、長年住んできた自宅にそのまま住み続けたいという方もいらっしゃるでしょう。その場合は、以下のような方法が挙げられます。
(1)再就職を検討する
定年退職後の収入の減少で住宅ローンの支払いが困難になっている場合、再就職をすることで安定的な収入が得られる可能性があります。年金以外の収入が増えれば、貯金を切り崩して生活費に充てるようなことも避けられます。
近年、シニア向けのアルバイトなどの求人も増えているので、無理のない範囲内で働けるような仕事を探してみてもよいでしょう。
(2)住宅ローンを見直す
定年までに住宅ローンの支払いが終わっていない場合、老後の生活が辛くなるリスクは高まります。少しでも住宅ローンの負担を軽減するために、住宅ローンの見直しを行いましょう。金利が高い住宅ローンを契約している場合、金利の安い住宅ローンに借り換えすれば、総返済額が減ることで支払いの負担を軽減できる可能性があります。
(3)リバースモーゲージを利用する
リバースモーゲージは、自宅を担保に老後の資金を借り入れる方法です。近年、リバースモーゲージを取り扱う金融機関が増えています。
リバースモーゲージは契約者の死亡時や契約満期時に一括返済することになり、金融機関が担保物件を競売にかけて返済に充てます。自宅の相続を希望する親族がいる場合はトラブルになる可能性があるので、リバースモーゲージを検討する場合は必ず事前に相談しましょう。
(4)リースバックを利用する
リースバックは、リースバック業者など第三者に自宅を売却し、その第三者と賃貸契約を結び、家賃を支払うことで住み続ける方法です。
自宅を売却することで住宅ローンの返済負担が軽減されますが、家賃の支払いが発生するなどのデメリットもあるので、慎重に検討しましょう。
まとめ
今回は、住宅ローンが原因で老後破産した場合のリスク、住宅ローンのために老後破産しそうな場合の相談先、自宅に住み続けながら老後破産を避ける方法などについて解説しました。
住宅ローンの返済が負担になり自己破産を検討しなければならないような場合、任意売却をすることで破産を避けられる可能性があります。任意売却は、競売よりも高額で売却できる可能性が高いため、競売を回避するために利用されることが多いです。任意売却を検討する場合は、任意売却専門の不動産会社へ相談しましょう。
当社は、任意売却を専門的に扱う不動産会社です。ご相談者様の状況やご希望を丁寧にお伺いした上で、最適な解決方法をご提案します。
「競売だけはなんとか回避したい」「住宅ローンの支払いが難しいけれど、今の家に住み続けたい」など、さまざまなご相談に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
こちらでは、当社での相談から解決までの流れを紹介していますので、参考にしていただければと思います。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉