公売と競売の違いとは?税金を滞納した時の対処法も紹介

税金の滞納が長期化すると、財産を強制的に売却される「公売」の対象となる可能性があります。公売とよく似た手続きに「競売」というものもあり、「違いがわからない」という人も多いのではないでしょうか。
この記事では、さまざまな側面から競売と公売の違いを解説します。税金を滞納してしまった場合の対処法も紹介しますので、そちらもあわせて参考にしてください。
1.公売に関する基礎知識
そもそも公売とはどのようなものなのでしょうか。
まずは、公売の概要や目的について説明します。
(1)公売とは
公売とは、国や地方自治体が差し押さえた財産を、一般市民に向けて売却することです。
正式には「滞納処分」と呼ばれ、国や自治体が行う行政処分の一つです。
公売には、一部の人を除き、原則として誰でも参加できます。公売の方式はさまざまで、WEBサイトで行われるインターネットオークションのほか、期間を定めて参加者が一度だけ入札する「期間入札」という方法もあります。
(2)公売は滞納された税金の回収手段
公売は、滞納税を強制的に回収することを目的として行われます。
主に税を滞納している人の財産が対象となります。つまり、税金を滞りなく納付していれば公売の対象となる心配はありません。
納付が難しい場合でも、滞納が長期化しないうちに納税相談に行き、払える分だけ払っていれば、公売の対象にはなりにくいです。
2.公売の対象となる財産
どのような財産が公売の対象となるのか具体的に説明します。
(1)滞納者の財産が公売の対象に
公売の対象となる財産は多岐にわたり、さまざまな動産・不動産のほか、権利や有価証券なども公売で換価されます。
こちらは、公売の対象となる主な財産です。
- 住宅やその土地
- 農地や山
- 貴金属や高級時計
- 絵画や価値の高い骨董品
- 自動車
- ゴルフ会員権
- 株式
公売にかけられた財産のなかには、専用のWEBサイトで買受人を募っているものもあります。
参考サイト:公売情報(国税庁公式サイト)
(2)対象とならない財産もある
さまざまな財産が公売の対象となりますが、なかには公売にかけることが法律で禁止されている財産もあります。国税徴収法に詳細な規定があり、例えば、以下のものは差し押さえができないため公売にかけることができません。
- 生活に不可欠な寝具や衣服・家電など
- 三ヶ月分の食料や燃料
- 農業の運営に必要な器具や肥料や家畜など
- 仏像や位牌など祭祀具全般
- 滞納者および家族の義手や義足など
- 消防用の器械や避難器具など
参考サイト:第七十五条(一般の差押禁止財産)|国税徴収法
また、税金を回収する際は、現金や不動産など比較的お金に換えやすいものから差し押さえられる傾向にあります。そのため、公売になったからといって家財を全て取り上げられるようなことはほとんどありません。
3.競売と公売の違い
他者の財産を差し押さえて売るという点では共通している競売と公売ですが、いくつか異なる点があります。主な相違点について説明します。
(1)債権者の違い
競売と公売は、いずれも債権者が保有する債権に基づき差し押さえを行います。それぞれの債権者は以下のとおりです。
公売 | 国や都道府県、国税庁など公的機関 |
競売 | 法人や個人 |
公売は国や自治体が税金を回収するために行います。一方、競売は個人間で貸したお金の回収や、企業の売掛金の回収など、さまざまな民事上の権利に基づいて行われます。
(2)手続きの流れの違い
財産を差し押さえて売却すること自体は、競売も公売も共通しています。異なるのは、裁判所への申し立てが必要かどうかです。
例えば、他人に貸したお金を回収するためにその人の財産を処分したくても、貸主が借主のものを勝手に売ることはできません。お金に換えるには、裁判所の許可を得た上で差し押さえを行い、所定の手続き(競売)を経る必要があります。
一方、債権者が国や自治体の場合、裁判所への申し立ては不要です。法律上は、督促状を発送してから10日を経過した時点で、財産を差し押さえることができます。
(3)売却までの期間の違い
前述の手続きの流れの違いから、売却完了までの期間も異なります。具体的な期間はケースバイケースですが、公売の場合は滞納から最短3か月程度で買受人に所有権が移転することもあります。
一方の競売では、期間は比較的長めです。住宅ローンの担保である物件が競売にかけられるケースであれば、滞納から所有権移転まで丸1年以上かかることも少なくありません。
(4)根拠となる法律の違い
競売と公売は、それぞれ手続きの根拠となる法律が違います。
公売は、国や自治体が主体となって行うため、国税徴収法または地方税法が根拠となります。一方、競売に関する規定は民事執行法に定めがあります。
4.税金を滞納して差し押さえられそうなときの対処法
税金の滞納が続いており、このままでは財産を差し押さえられてしまうという場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
具体的な対処法について説明します。
(1)滞納が長期化する前に窓口に相談する
経済的な事情などから税金を納付するのが難しい状況に陥っているなら、まずは担当窓口に相談しましょう。所得税や相続税などの国税は税務署に、固定資産税や住民税など地方税は市役所に窓口があります。
仮に税金を満額納付できないときでも、滞納が長期化する前に納税相談をすれば、比較的柔軟に対応してもらえることが多いです。分割納付や支払い期限の延長などに応じてもらえることもあるので、まずは窓口で事情を説明して相談してみましょう。
(2)借金がある場合は債務整理を行う
借金の支払いが原因で経済状況が悪化して納税できないのであれば、納税相談と同時に債務整理も検討してみてください。
債務整理は、借金を整理して経済的な基盤を立て直すための手続きのことです。裁判所の手続きを利用して、借金を大幅に減らしたり免除を受けたりできることもあります。
所有財産があって裁判所の手続きを利用できない場合も、利息分をカットする、月額の返済を軽減するといった交渉ができることもあります。
利用できる手続きは、借金の内容や収入などによって異なるので、債務整理が必要な場合は、債務整理に詳しい専門家に相談するとよいでしょう。
(3)任意売却で家を売却する
税金の滞納により自宅が差し押さえられている場合、任意売却でより有利に売却できることがあります。
任意売却とは、自宅など不動産が差し押さえられている場合に、債権者の許可を得て一般市場などで売却することです。公売と比較して高く売れることが多く、税金を完納しても代金が残るのであれば自分のものにできます。
ただし、任意売却にあたっては差し押さえを行っている自治体との交渉が必要です。スムーズに交渉を進めるためには、任意売却に精通した不動産会社のサポートを受けるとよいでしょう。
5.税金の支払いと通常の債務の違い
税金の支払いは、滞納すると財産を差し押さえられる点は通常の債務と共通しています。しかし、徴収の主体が国や自治体など公的機関であることから、いくつか異なる点があり注意が必要です。
(1)自己破産をしても免責されない
税金の支払い債務は、自己破産の手続きによる免責の対象となりません。
破産手続きで免責許可決定が降りれば、消費者金融の借金やローンの支払い債務など、さまざまな債務の支払いの免除を受けることができます。しかし、裁判所の破産手続きには、いくつか免責の対象外となるものがあります。
自己破産で免責されない主な債務はこちらです。
- 故意によって与えた損害に対する賠償債務
- 故意または重過失によって生命または身体に与えた損害の賠償債務
- 婚姻費用や養育費にかかわる債務
- 税金の支払い債務
税金の種類を問わず支払いは免除されませんので、注意してください。
(2)延滞税がかかる
税金の支払い期日に遅れたときのペナルティとして用意されているのが延滞税です。放置している期間が長ければ長いほど、延滞税の金額は増えていきます。
延滞税の税率は状況によって異なります。令和3年1月以降に課される国税の延滞税の場合、税率は以下のとおりです。
納期限の翌日から2ヶ月を経過する日まで | 年率7.3% |
納期限の翌日から2ヶ月を経過した日以降 | 年率14.6% |
(3)柔軟な対応が期待できないことも
税金の支払いについて窓口で相談した際の担当者の対応は、各自治体によって異なりますが、「お役所仕事」などと揶揄されることもあるように、柔軟な対応を期待できないこともあります。
例えば、税金の滞納により不動産を差し押さえている場合、公売より高額で売れる可能性が高く、回収できる税金が増えるにもかかわらず、任意売却に非協力的であるケースがしばしばあります。
このような場合でも、交渉に慣れている専門家が交渉すれば、任意売却に応じてもらえる可能性があります。公売に応じてもらえない場合は、任意売却の経験を豊富に持つ不動産会社に相談するとよいでしょう。
6.まとめ
競売と公売には、主体となる債権者や売却までの期間、根拠となる法律などに違いがあります。特に、売却完了までの期間は競売と比較して余裕がないことが多いため、混同しないようにしましょう。
「税金の滞納により自宅を差し押さえられてしまった」「住宅ローンの滞納により自宅を競売にかけられそう」などという場合、任意売却により公売や競売を回避できる可能性があります。ただし、任意売却を成功させるためには、任意売却に関する専門的なノウハウや経験が求められるので、不動産会社は慎重に選びましょう。
当社は、任意売却を専門的に扱う不動産会社です。ご相談者様のご希望や状況を丁寧にお伺いした上で、その後の生活の再建まで見据えたサポートを提供しておりますので、お気軽にご相談ください。
こちらでは、当社での相談から解決までの流れを紹介していますので、参考にしていただければと思います。

寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉