任意売却の注意点とは?失敗しないために抑えておきたいポイント

注意点

住宅ローンを滞納して物件が競売にかけられてしまった際に、競売を回避する方法の一つが任意売却です。ただし、任意売却は、一般的な不動産売買とは「ローンが残る」「売却活動に期限がある」など、性質が異なります。任意売却を成功させるために、あらかじめ注意点と対処法を知っておくことが大切です。

この記事では、任意売却で失敗しないために、抑えておきたいポイントについて解説します。

1.任意売却とは

任意売却とは、①売買金額より残債務額が上回る場合に、②不動産に対して担保権を設定している債権者・抵当権者(保証会社等)及び利害関係人(市役所・財務省など)に不動産売却金の配分を行うことによって承認をえることで、抵当権や差押登記等を解除してもらい、③債務者である売主と第三者の買主との間における売買契約を成立させること。』です。要するに、①オーバーローンでローンを全額返せないが、②金融機関等のお許しを得て、③不動産を売却することです。この3つの要素が非常に重要です。

ローンなどの担保となっている不動産は、売却価格が残債を上回っていない限り、ローンを完済できないため売却はできません。しかし、ローンを滞納し、任意売却が必要な状況では、担保の不動産は売却価格が残債を下回っています。そのため、そのままでは売るに売れない状態です。こういった不動産を、債権者を説得して売却するのが任意売却です。

ローンを滞納していると、金融機関は残債を回収するため、担保物件を裁判所の競売にかけます。任意売却を始めたからといって、競売を取り下げるわけではないため、競売と同時進行するのが通例です。

任意売却にかかる期間はケースバイケースです。住宅ローンの滞納が発生していない状態から準備を始めた場合、売却完了までの期間は平均で10カ月程度です。買い手が早期に見つかった場合は、より短い期間で完了することもあります。

任意売却の着手から完了までの一般的な流れは以下のとおりです。

  1. 不動産会社へ相談
  2. 不動産の査定を受ける
  3. 債権者と交渉し任意売却の同意を得る
  4. 売却活動開始
  5. 内見と購入申し込み
  6. 売買契約の締結
  7. 売却価格と代金からの経費捻出に対する最終了承を得る
  8. 決済と引き渡し

2.任意売却のメリット

前述のとおり、担保となっている不動産を売却するには「任意売却」「裁判所の競売」の二種類の方法が存在します。任意売却は競売と比べて所有者のメリットが大きい売却方法です。詳細を確認してみましょう。

(1)競売より高く売れる可能性が高い

任意売却では、競売より高い価格で売却できる可能性が高いです。これは、任意売却では一般の不動産市場で、相場にのっとった価格で物件を売却するためです。

競売で不動産を売却する場合、売却価格は市場の相場より大幅に低くなります。具体的な価格は物件によって異なりますが、市場価格の50%から70%程度になることが多いです。

競売では「内見ができない」「物件を検討できる期間が短い」など、買主にとってのデメリットが基準価格に反映されます。そのため、このように安い価格での売却となるのです。

任意売却では、物件は通常の不動産の売買と同じく、不動産会社の仲介で売却されます。そのため、市場相場と同等の価格で売却できるケースが多いです。

物件の売却価格は、売却完了後の残債の額に直結します。そのため「高く売れる」点は非常に大きなメリットといえるでしょう。

(2)引き渡し日や内覧日を調整できる

任意売却は、一般の不動産売買と同じく、仲介会社を介して売却活動を行います。そのため、引き渡しや内覧日なども、希望者と調整のうえ、任意で決定することが可能です。また、広告をせずにひっそりと販売活動をすることも可能で、プライバシーを配慮できます

裁判所主導の競売では、物件の明け渡しや現況調査(査定や写真撮影)の日は裁判所が決定します。所有者の都合は一切考慮されず、日程の調整も原則できません。応じられなければ「引き渡し日に荷物を運び出す」「鍵を破壊して査定を行う」といった強制執行もあり得ます。経済的に困窮している所有者にとっては、精神的負担が大きいでしょう。

(3)代金の一部を持ち出せることがある

任意売却では、債権者の同意のもと、売却代金の一部を経費や各種清算費用に使えることがあります。

物件の任意売却を検討する方は、手持ちの現金が心もとないことが多いです。引っ越しの費用や税金の支払いが必要でも、用意できないことも珍しくありません。任意売却は、債権者の同意の上、代金の一部をこれらの費用に充てられる場合があります。

一方の競売では、売却代金は裁判所が管理し、全額債権者に支払われます。引越しなどでお金が必要な場合も、自分で用意しなければなりません。

3.任意売却の注意点

所有者にとってメリットの大きい任意売却ですが、検討にあたっては注意点も存在します。具体的な注意点について説明します。

(1)ブラックリストに載る

競売でも同じことですが、任意売却が必要なほとんどのケースで、信用情報機関に事故情報が掲載されます。いわゆるブラックリスト入りです。

任意売却の多くは住宅ローンの滞納が前提となります。住宅ローンを滞納すると、滞納から60日程度で事故情報が掲載されることが一般的です。そのため、仮に売却活動の結果買主を見つけることに成功しても、事故情報の掲載までには間に合わないことがほとんどです。

一度ブラックリスト入りすると、数年間は新たな借り入れやクレジットカードの作成ができなくなります。「任意売却に成功する=信用情報に傷がつかない」というわけではありません。この点は留意しておきましょう。

(2)任意売却にはタイムリミットがある

通常の不動産の売却とは違い、任意売却には期限があります。任意売却の売却活動は、競売の手続きと同時に進行するためです。具体的には、競売の開札期日の前日までに、代金の受け取りと物件の引き渡しを完了させる必要があります。

このことから、任意売却では競売のスケジュールを意識しながら、売却活動を進めることが重要です。

(3)「任意売却成功=ローンがなくなる」ではない

「任意売却が成功すれば住宅ローンはなくなる」と勘違いされる方もいらっしゃいますが、これは誤りです。任意売却が必要になるのは、売却価格よりローンの残債が多い「オーバーローン状態」のケースだからです。すなわち、売却代金を債権者に支払っても、ローンの残高があるため返済義務はなくなりません

そのため、任意売却と同時に「売却後の残債をどうするのか」という点についても検討が必要です。自己破産を検討する、月額を数千円程度に調整して無理のない返済を目指すなど、債務者の状況や方針に応じた解決策を選択することになります。不動産会社を選ぶ際は、残債の処遇についても相談できるか確認しておくとよいでしょう。

(4)任意売却には債権者の同意が必要

任意売却の対象となる物件には、債権者(金融機関など)が抵当権を設定し、債務の担保としています。抵当権の解除は権利者の同意が必要なため、債権者に黙って勝手に売ることができません

そのため任意売却では、売却活動を開始する前に、必ず債権者の同意を取り付けます。なかには任意売却になかなか同意しない金融機関も存在するため、不動産会社とともに粘り強く交渉する必要があります。

(5)必ず成功するとは限らない

任意売却は着手すれば必ず成功するわけではなく、以下のような理由で買い手が見つからないことがあります。

  • 家の条件がエリアの需要と合わない
  • 債権者の許可が出ず値引きに応じられない
  • 着手が遅く売却活動ができる期間が短い
  • 築年数が古く希望者が現れない

家や条件に問題がない場合でも、タイミングが悪ければ売買が成立しないこともあります。そのため、必ず成功するとは限らないという点に注意してください。

4.任意売却で失敗しないためのポイント

任意売却を成功に導くために、いくつか注意しておきたいポイントがあります。注意すべきポイントについて具体的に説明します。

(1)任意売却には早めに着手する

任意売却には「開札日の前日までに売買を完了する」という制限があります。売却活動に使える期間に限りがあることから、早期着手が重要です。

当社には「競売開始決定通知書」が届いた後など、競売手続きがかなり進行してからご相談に来られる方も少なくありません。このようなタイミングからでも任意売却に着手することは可能です。しかし、期限に余裕がないことから、売却価格より早期成約を優先しなければならないこともあります。

より売却活動に時間をかけ、有利に売却するためにも、早めの相談がおすすめです。現状督促状などの書面が届いていなくても、将来的には競売になる可能性が高いのであれば、この時点で任意売却を検討するのも一つの方法です。

(2)任意売却に精通した不動産会社のサポートを受ける

任意売却を成功させるには、知識や経験の豊富な不動産会社のサポートが不可欠です。

任意売却自体は「宅地建物取引業」の免許を持つ会社であれば扱うことができます。しかし「債権者と交渉のうえ、決められた期日までに売却を完了しなければならない」という特殊な性質から、通常の不動産会社では手に余ることが多いです。

任意売却を依頼する会社を選ぶ際は、過去の実績がどの程度あるかを基準にしましょう。実績の多い会社であれば、任意売却を円滑に進められますし、より確実に競売を回避できます。

また、債権者である金融機関からも、過去の任意売却で信用を得ている可能性が高く、交渉もスムーズです。売却代金から引っ越し代などの費用を持ち出す際にも、希望が通りやすいといえます。

過去の実績は、不動産会社のWebサイトなどに掲載されています。この点を基準に候補を絞るとよいでしょう。

(3)連帯保証人の同意は早めに得る

住宅ローンに連帯保証人を付けている場合、債権者だけでなく連帯保証人の同意も必要です。というのも、任意売却では完了後も住宅ローンが残り、残債は連帯保証人にも支払い義務があるからです。

たとえ債権者を説得できたとしても、連帯保証人が同意しなければ、任意売却を始めることはできません。「放置しておくと競売にかけられ残債が多く残る」「任意売却にしたほうがキズは浅い」という旨を説明し、納得してもらう必要があります。債権者との交渉に着手するより早く同意を取り付けられれば理想的です。

ひとりでは説得が難しい場合、不動産会社のスタッフに依頼して同席してもらうことも可能です。連帯保証人がなかなか首を縦に振らない場合は、その点も含めて早めに不動産会社に相談しましょう。

(4)売れやすくなるよう売却活動に協力する

任意売却物件の売却活動は、仲介会社に一任することもできます。しかし、所有者が売れやすくなるよう売却活動に協力することで、より早く売却できることもあります。

例えば、家の外観をメンテナンスすると、物件を探している人の目に留まりやすくなります。お金をかけて修繕しなくても、庭の草を短く刈る、できる範囲で塀や外壁の汚れを掃除するなどの方法で、印象はかなり変わります。

また、内見の際は相手が気持ちよく見て回れるように対応しましょう。隅々まで時間をかけて見学できれば、購入の意欲が高まる可能性もあります。部屋はなるべく片付けておくとよいでしょう。

5.まとめ

任意売却は、競売と比較して所有者にメリットの大きい売却方法です。ただし「タイムリミットがある」「住宅ローンが残る」など、注意が必要な点も存在します。

任意売却を成功させるには、なるべく早期に、任意売却の実績が豊富な不動産会社に相談することが重要です。「過去の実績は豊富か」「サポートが充実しているか」を基準に、自分に合った不動産会社を選んでみましょう。

当社では、住宅ローンの滞納の悩みを、任意売却をはじめとしたさまざまな方法で解決しています。過去の1,000件以上の実績を背景に、経験豊富なスタッフが売却後の生活再建まで見据えたトータルサポートを提供します。任意売却をご検討の方は、お気軽に無料相談をご利用ください。

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一

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