親族間売買をみなし贈与と判断されないための注意点を解説
不動産の親族間売買を検討中の方の中には、親族間売買について調べているうちに、みなし贈与とみなされる可能性があることを知って不安に思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
税務署にみなし贈与と判断されてしまうと、譲渡所得税だけではなく、贈与税まで課されてしまいます。税金を余分に支払わないためにも、親族間売買を適切に成立させるためのポイントを理解することが大切です。
今回は、親族間売買の概要、みなし贈与の定義、親族間売買をみなし贈与とされないための注意点、親族間売買を行う流れなどについて解説します。
親族間売買とは?
まずは、親族間売買の「親族」の定義と、一般的な不動産売買との違いについて解説します。
1.「親族」の定義は曖昧
実は、どのような関係であれば、税務署が「親族」とみなすのかという明確な基準はありません。法律では①6親等内の血族、②配偶者、③3親等内の姻族を親族とするとされていますが(民法第725条)、税務署の実務では、もっと広く捉えられていると考えられます。
法律で定められた「親族」に該当しなくても、特別に親しい間柄であれば、相場よりもはるかに低い金額で売買される場合もあるからです。税務署の務めは、納税者から適切に税金を徴収することなので、このような取引は看過できません。
税務署は法律で定められた親族の定義も基準にしていますが、税務署の実務ではその基準を超えてチェックされているのです。
2.親族間売買と一般的な不動産売買との3つの違い
親族間売買と一般的な不動産売買にはどのような違いがあるのでしょうか。主な違いについて説明します。
①売買価格の違い
親族間売買における価格は、一般的な売買よりも低いケースがほとんどです。その理由は、価格決定の背後にある売主と買主、双方の思惑にあります。
一般的な売買では、売主はできるだけ高く、買主はできるだけ低い価格で取引を成立させたいものです。しかし、親族間売買では、双方ともできる限り安く取り引きしようと考えます。そのため、相場よりも低い価格で取引が成立しやすいのです。
②仲介手数料が要らない
一般の不動産売買では、不動産会社が仲介に入るケースがほとんどです。そのため、仲介手数料が発生します。
一方、親族間売買では、不動産会社を介さず、当事者間で取り引きを成立させるために仲介手数料が発生しないことが多いです。
③支払う税金や利用できる特例の違い
不動産取引をすれば、利益に対して譲渡所得税がかかります。これは、親族間売買でも、一般的な不動産売買でも同じです。しかし、親族間売買をみなし贈与と判断されてしまうと、贈与税も余分にかかります。
また、親族間売買では、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」など利用できない税制上の特例が多くあります。
④住宅ローンの審査の違い
親族間売買では、一般的な不動産売買に比べて住宅ローンの審査が通りにくい傾向にあります。中には、親族間売買の場合の融資はしないという方針の金融機関も存在します。住宅ローンを利用できないために資金調達に困るケースもあるでしょう。
みなし贈与とは?定義とデメリット
税務署にみなし贈与とみなされないためには、その定義を知っておくことが大切です。
みなし贈与の定義と、みなし贈与とみなされることによるデメリットについて説明します。
1.意図せず贈与とみなされてしまうこと
みなし贈与とは、当事者たちは「売買した」と思っているのに、税務署に贈与と判断されてしまうことです。どのような場合に贈与とされるのかは、相続税法第9条で以下のように定義されています。
- 対価を支払わなかった場合
- 著しく低い価額の対価で取り引きされた場合
親族間売買で問題になるのは後者です。
2.親族間売買でみなし贈与とみなされやすいケース
取り引きが贈与に該当するかは、市場価格を基準に判断されます。一般的に取引価格が時価の80%以下であれば、みなし贈与と判断されやすいでしょう。
3.親族間売買がみなし贈与とされるデメリット
みなし贈与とみなされてしまうと、売買時に発生する譲渡所得税だけではなく、贈与税がかかります。
たとえば、時価5,000万円の物件を1,000万円で売却し、贈与とみなされた場合、差額の4,000万円が贈与とされ、贈与税の課税対象となるのです。
贈与税の税率には「特別贈与財産用」と「一般贈与財産用」の2種類があり、それぞれの概要と税率は以下のとおりです。
①特別贈与財産用
親から子どもなど、上の世代から下の世代へ贈られる場合の贈与税率です。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超え400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超え600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超え1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超え1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超え3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超え4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超え | 55% | 640万円 |
参考URL:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)(国税庁公式サイト)
②一般贈与財産用
夫婦間や兄弟姉妹間での贈与など、特別贈与財産用に該当しないケースに使用します。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超え300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超え400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超え600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超え1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超え1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超え3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超え | 55% | 400万円 |
参考URL:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)(国税庁公式サイト)
親族間売買をみなし贈与とされないための注意点
贈与税の課税を避けるためにも、以下の点に注意しましょう。
1.価格設定に注意
みなし贈与とされないためには、売買価格を適切に設定することが大切です。
しかし、税務署が適正とする基準は公表されていません。そのため、以下のような方法で適切に価格を設定することが大切です。
①路線価を使用する
路線価とは、道路に面する宅地の1㎡あたりの価格です。主に課税価格を算出する際に使用されます。その価格は市場価格の8割程度に設定されていることが多くありますが、過去に「親族間売買を路線価で行っても、著しく低い価額での取引とはいえない」とした裁判例もあります。著しく低い価額での取引とはいえないということは、適正な価格であると認められる可能性が高いので、路線価は適正価格を判断するための一つの基準として有効だといえるでしょう。
ただし、地域によっては、路線価が設定されていなかったり、路線価と市場価格に大きな乖離があったりするところもあるため、必ずしも有効な基準になるとは限りません。
②不動産業者に査定してもらう
路線価が設定されていい場合や、タワーマンションなど路線価と実勢価格に大きな差が生じている場合は、不動産業者に査定を依頼しましょう。不動産業者に査定を依頼すれば、実際の取引価格に近い金額を算出してもらえます。みなし贈与と判断される可能性を低減できるでしょう。
2.売買契約書を作成する
親族間売買では、当事者同士が気心の知れた間柄であることもあり、売買契約書を作成しない方もいらっしゃいます。しかし、契約書がなければ、税務署に贈与とみなされる可能性があります。売買であったことを示すためにも必ず作成しておきましょう。
親族間売買を行う流れ
親族間売買は、基本的に以下のような流れで進めます。
1.まずは所有者や権利関係を確認
まずは取引をする不動産の登記事項証明書を取得し、現状を確認しましょう。所有者が、前の代のままになっていないか、ローンを完済したはずなのに抵当権が登記されたままになっていないかなどをチェックします。登記内容が実際の状況と違う場合は、登記し直しておきましょう。
2.適正価格の調査
税務署にみなし贈与と判断されないためには、適正価格で取引をすることが大切です。路線価を調べる、不動産業者に査定してもらうなどの方法で調査しておきましょう。
3.売買の条件を決定
スムーズに取引を行うためにも、当事者間で売買条件について話し合っておきます。具体的には以下のことを決めておきましょう。
- 売買代金
- 代金の決済方法
- 売買契約締結日
- 引き渡し日
- 契約不適合責任(瑕疵担保責任)
親族間売買の場合、契約不適合責任は問わないケースも多いです。
4.売買契約の締結
売買条件が決定したら、契約締結日に当事者双方が売買契約書に署名、捺印し、契約を締結します。
5.決済、引き渡し、登記手続き
代金の支払い、物件の引き渡し、所有権移転登記手続きを行います。これらの手続きは、通常、同日に行うことが多いです。
6.税務申告と納税
不動産売買では以下の税金を支払う必要があります。
- 不動産取得税
- 譲渡所得税
- 固定資産税
忘れずに申告し、納税しましょう。
親族間売買を専門業者に依頼するメリット
不動産の親族間売買は専門の不動産業者に依頼することをおすすめします。専門業者に依頼すれば、以下のようなメリットがあります。
1.みなし贈与とされない適正価格で売買できる
親族間売買をみなし贈与と判断されないためには、前述したとおり価格を適切に設定することが大切です。しかし、適正な価格を算出するには専門知識が必要です。複雑な要素も含まれるため、一般の方がご自身で求めるのは難しいでしょう。
贈与税の支払いを確実に避けるためにも、親族間売買の実績を豊富に持つ不動産会社を選んで依頼することが大切です。
2.親族間売買でも住宅ローンを利用しやすくなる
金融機関では、親子間売買は贈与にあたる可能性があることから警戒される傾向にあり、住宅ローンの審査に通らないことが多いです。
しかし、親族間売買の実績を豊富に持つ不動産会社なら、普段から取引のある提携先の金融機関に、贈与ではなく通常の売買と変わりがないことを証明し、融資を受けられるように手配することが可能です。
まとめ
今回は、親族間売買とはどのような行為か、みなし贈与の定義とデメリット、親族間売買をみなし贈与とされないための注意点、親族間売買を行う流れ、親族間売買を専門業者に依頼するメリットなどについて解説しました。
みなし贈与と判断されないためには、売買価格を適正に設定することが大切です。適正な方法で親族間売買を行うためには、親族間売買に関する専門的な知識と経験を持つ不動産会社を慎重に選ぶことをおすすめします。
当社は、数多くの親族間売買を手掛けてきた不動産会社です。「みなし贈与とみなされないための適正価格を知りたい」「親族間売買で住宅ローンを利用できる金融機関が見つからない」など、さまざまなご相談に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
こちらでは、当社での相談から解決までの流れを紹介していますので、参考にしてください。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉