親族間売買は税務署にマークされる?贈与税の課税対象となるのは?
「親族間売買は税務署にマークされて贈与税の対象になる」という話を聞いて不安になったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。親族間売買だという理由だけで、必ずしも課税対象とされるわけではありませんが、売買の価格設定を誤ると、売却が完了した後、思わぬ請求を受けることがあります。
この記事では、親族間売買が税務署にマークされやすい理由と、課税を回避する方法について解説します。
1.親族間売買が税務署にマークされるのはなぜ?
親族間での不動産売買は、通常の売買よりも税務署から厳しくチェックされます。なぜ親族の売買というだけで厳しいチェックを受けるのでしょうか。その理由について説明します。
(1)親族間の「売買」は一般的ではない
一つ目の理由として、そもそも「売買」という形は、親族間での不動産譲渡の方法としては一般的ではないということが挙げられます。相続や贈与という形式を取れば、わざわざ代金を支払う必要はないのに、敢えて売買という形式を取るのはなぜか、という観点が税務署から疑いをかけられる要因となっています。
実際にはさまざまな理由から、贈与や相続ではなく売買による譲渡を必要とする方がいらっしゃるのですが、残念ながら税務署のチェックではそのような事情は汲み取られません。
(2)贈与の隠れミノとして警戒される
「贈与や相続でなく、売買という形式を取る理由」として、税務署が警戒するのが脱税です。贈与の場合、贈与を受けた金額に応じて贈与税が発生しますが、売買では贈与税が発生しません。つまり、「課税を回避するための隠れミノとして売買という形式を採用しているのではないか」と疑われるのです。
事実、この手の贈与税逃れの売買は過去の事例として多く存在します。このような背景があることから、税務署も厳しくチェックせざるを得ないのです。
(3)マークされる「親族」の範囲は?
親族間の売買と一口にいっても、遠い親戚の土地を譲ってもらう場合や、代金を払って実家を引き取る場合など様々です。では、税務署にマークされやすい「親族」とは、どこまでの関係なのでしょうか。
税務署は、「売買を厳しくチェックするのはここまで」などという基準を公開しているわけではありませんが、目安としては「相続が発生する間柄での売買」が一般的とされています。つまり、民法に規定される以下の者です。
第七百二十五条 次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
引用:民法|e-GOV法令検索
上記の間柄での売買は、特に厳しくチェックされる傾向にあるため注意してください。
(4)贈与と認定されると課税対象に
親族間売買が贈与だと認定されると、贈与税の課税対象となります。課税される額はケースバイケースですが、適正価格と売買価格の差が大きい場合、税額も相応に大きくなります。
例えば、本来1,500万円相当が適正価格とされる物件を500万円で取引した場合、贈与税が課される「低額譲渡」とされます。この場合、差額の1,000万円から各種控除を引いたのち、10%から55%の間で、控除後の金額に応じて税額を算出します。
仮に、特例贈与財産に該当し、600万円超から1,000万円以下に該当する場合、税率は40%です。
不動産としてはそれほど高額ではなくても、数百万円単位で課税される可能性があるため、売買は慎重に行わなければなりません。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
(5)不動産売買を税務署に隠すことはできない
「親族間での不動産売買を、わざわざ税務署に知らせる必要はないのでは?」「税務署に申告しなければバレないのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、基本的に不動産の売買を税務署に隠すことはできません。
まず、不動産会社は税務署への報告義務があり、仲介会社を入れている場合はそこから露見します。また、住宅ローンを組んで不動産に抵当権が設定された際も、税務署の知るところとなります。その他、税務署は、口座の送金履歴などさまざまな方法でお金の流れを調査しますので、隠蔽はほぼ不可能なのです。
2.税務署は課税対象かをどう判断するのか
低額譲渡は課税対象となることを前述しましたが、税務署はどのような基準で「低額譲渡」と判定しているのでしょうか。課税対象を定める判断基準について説明します。
(1)基準は適正価格かどうか
低額譲渡の判定基準は、売買が適正価格で行われたか否かです。土地の場合の適正価格は、過去の判例から路線価相当額(おおむね時価の8割)とされるのが一般的です。この金額を大きく下回っている場合は、贈与税の課税対象とされる可能性があります。
路線価が設定されている土地の場合、国土交通省のデータベースから価格を確認できます。自分の土地の路線価がいくらなのか、チェックしてみましょう。
(2)適正価格の判断が難しいケースは?
土地の売買であれば、路線価を目安として売買金額を設定すればおおむね安心といえます。ただし、この方法が通じるのは土地のみ、かつ路線価が設定されている場合のみです。以下のようなケースは、適正価格の算出が難しく、別途計算が必要です。
- 土地に建物が建っている
- 路線価が設定されていない
- 台形など不整形地(別途補正が必要)
- タワーマンションなど時価と路線価の乖離が激しい
- がけ地に位置している(別途補正が必要)
(3)自分で適正価格を判断できない場合は?
上記のように、自分で適正価格を判断することが難しい物件の場合、専門家の力を借りて売買価格を算定することをおすすめします。この場合、候補となるのが、不動産鑑定士と不動産会社です。
不動産鑑定士による鑑定結果は対外的な信用が高く、税務署にも適正価格として認められやすいというメリットがあります。ただし、鑑定に数十万円単位で費用がかかるため、予算が限られる場合はおすすめできません。
不動産会社の査定でも、土地・建物を含めた市場価格を知ることができ、適正価格の算定に役立ちます。ただし、経験が浅い不動産会社の場合、「仲介依頼にこぎつけたい」という意向が、少なからず価格に反映されることがあります。そのため、親族間売買に詳しい不動産会社に査定を依頼することをおすすめします。
3.贈与税回避のために不動産会社に仲介を依頼
「身内での売買なのだから、わざわざ不動産会社を間に入れる必要はないだろう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。確かに、その方が仲介手数料を節約できるのですが、親族間売買では、不動産会社に仲介を依頼して取引することをおすすめします。その理由について説明します。
(1)査定により適正価格がわかる
前述した通り、不動産会社に仲介を依頼することで、物件の査定により無料で適正価格を知ることができます。また、「息子に譲るので安くしてあげたいけれど、贈与税がかからない範囲にしたい」などという希望を聞いてもらうこともできます。
ただし、経験の浅い不動産会社は、適正価格の設定に失敗する可能性があるため、不動産会社は慎重に選ぶことが大切です。不動産会社を選ぶポイントについては、後ほど説明します。
(2)正当な売買と証明できる
不動産会社に仲介を依頼することで、正当な売買であると認めてもらいやすくなります。身内の間だけで完結する不動産取引は、ごまかしも可能であるため、外部からの信用を得にくいという難点があります。
不動産会社に仲介を依頼すると、契約書や重要事項説明書など各種書面を発行してもらえるため、「売買自体が偽装なのではないか」という疑いを受ける可能性は低いです。万一税務署から連絡が来ても、書面を提出した上で堂々と説明することができます。
(3)住宅ローンを組みやすくなる
不動産会社に仲介を依頼する大きなメリットとして、住宅ローンを組みやすくなることが挙げられます。
親族間売買を含む個人での不動産売買で、住宅ローン審査に通るのは至難の業です。住宅ローン審査では、金融機関が不動産のリスクを把握するために、不動産会社が発行する重要事項説明書の提出が必須だからです。この書類は司法書士など他の資格者に依頼しても作成はできません。そのため、住宅ローンの利用が必要な場合、不動産会社に仲介を依頼しなければなりません。
また、親族間売買に融資する金融機関は少数派なので、融資可能な金融機関を知った上で、借入先を探す必要があります。個人で融資可能な金融機関を探すのは非常に難しいため、親族売買の実績を豊富に持つ不動産会社のサポートが必要です。
(4)会社選びには親族間売買の実績をチェック
不動産会社を選ぶ際は、過去の親族間売買の実績をチェックし、実績を豊富に持つ会社を選ぶことが大切です。
仲介の依頼自体は、一般的な不動産会社でも可能ですが、親族間売買では、贈与税を意識した適正価格の設定、親族間売買への融資が可能な金融機関探しなど、専門的なノウハウが求められる業務が多く発生します。そのため、親族間売買の実績を持たない不動産会社に依頼すると失敗する可能性があるという点に注意が必要です。
依頼先を探す際は、まずは公式サイトなどに掲載されている実績を確認しましょう。親族間売買を得意としている会社の公式サイトには、過去の事例が掲載されていることが多いです。
4.まとめ
親族間売買で、税務署から贈与税を課税されることを避けるためには、適正価格で売買することが非常に大切です。適正価格で確実に売買するためには、パートナーとなる仲介会社選びは慎重に行いましょう。親族間売買に関するノウハウと経験を豊富に持つ不動産会社を選べば、希望通りの取引ができる可能性が高くなります。
当社は、数多くの親族間売買を手掛けてきた住宅ローン滞納問題を専門的に扱う不動産会社です。豊富な経験と専門的なノウハウにより、適正価格の提示や、住宅ローンを借り入れられる提携金融機関の紹介など、ご希望に応じて丁寧にサポートさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
こちらでは、当社が過去に手掛けた親族間売買の事例をご紹介していますので、参考にしていただければと思います。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉