競売の現況調査とは?調査の目的と内容、注意すべきポイントを解説
家が裁判所の競売にかかると、準備段階として行われるのが現況調査です。現況調査は、担当者が訪問して行う現地調査ですが「どんなことを調べられるのかわからなくて不安だ」という方もいらっしゃるようです。
今回は、競売の現況調査の目的や内容、注意が必要な点などについて詳しく解説します。
1.競売の現況調査とは
そもそも現況調査とはどのような調査で、何のために行うのか分からないという方もいらっしゃるかと思いますので、まずは現況調査の概要や目的について説明します。
(1)現況調査=競売で売却する家の下見・査定
競売の現況調査とは、競売の対象となった家の売却の準備をするための下見や査定のことです。一般的な不動産の売却でも、不動産会社の営業マンが現地を訪問して査定しますが、競売では、裁判所から任命された執行官が家を訪問し、以下のような点を調査します。
- 土地や建物の状況はどうか
- 権利関係に問題はないか
- どのような人が住んでいるのか
このように、登記の登録情報だけでは分からない内容を、現地調査や聞き取りを行うことで調べます。現況調査の結果をもとに、入札の目安となる売却基準価額が設定されます。
(2)現況調査で集めた情報は外部に公開される
現況調査で集めた情報は、不特定多数の人が閲覧できるよう外部に公開されます。
不動産の競売には一部の人を除き誰でも参加できるため、広く参加者を募る目的で収集した情報は専用のWEBサイトで公開されます。物件の外観・内観写真、土地の情報、権利関係などさまざまな情報を誰でも見ることが可能になります。秘匿されるのは所有者の氏名くらいなので、自宅を知っている人に見られた場合、自宅が競売にかけられていることを知られてしまうでしょう。
(3)現況調査を拒否することはできない
現況調査は、裁判所の都合で家に職員が訪問し、外部に情報を公開されるため、「できれば断りたい」という方も少なくありません。しかし、残念ながら現況調査を拒否することはできません。
裁判所の職員は、所有者が訪問を拒否した場合でも、立ち入ることを認められています。鍵を締めて入ってこられないようにしても、鍵開けの業者によって解錠されて強制的に調査が行われます。
必ずしも積極的に協力する必要はありませんが、調査に応じた方が早く終わるため精神的なダメージは少ないでしょう。
2.ローン滞納から現況調査・競売完了までの流れ
住宅ローンを滞納してから、現況調査を経て競売が完了するまでは、基本的に以下の流れで進行します。
- 金融機関からの督促状の送付(複数回)
- 催告状(期限の利益喪失予告通知書など)の到着
- 期限の利益の喪失(この時点で分割払いができなくなる)
- 保証会社による代位弁済の実行
- 債権者による競売の申し立て
- 競売開始決定通知の到着
- 現況調査の実施
- 競売の期間入札通知の到着
- 期間入札の公告(物件情報の外部公開開始)
- 入札開始
- 開札(結果発表)
- 売却許可決定
- 買受人(購入者)による代金の納付
- 明け渡し
滞納開始から明け渡しまでは、12か月から18か月程度かかることが一般的です。ただし、手続きの進行状況はケースによって異なるので、あくまで目安と考えておいてください。
3.現況調査の内容
実際の現況調査当日は、どのようなことが行われるのでしょうか。調査の内容について説明します。
(1)指定の期日に裁判所の職員と不動産鑑定士が訪問
現況調査は、あらかじめ書面で通達された日程で行われます。ある日突然訪問されることはないため、その点は安心してください。ただし、この日程は原則変更できません。
当日は、裁判所から任命された執行官と不動産鑑定士が自宅を訪問します。居留守を使っても勝手に立ち入られますので、応じるようにしましょう。
(2)家の状況を確認し写真を撮影する
現況調査で主に行われるのは、家の価額評価と現況の確認、写真の撮影です。これにより、家の価値がどのくらいなのか、どのような状況なのか情報を集め、入札の判断材料として公開します。
「現況」とは、訪問したタイミングでの家の状況のことです。例えば、給湯器が壊れている、ペットを飼っていて臭いがある、床の一部が腐食しているなどという内容は、間取り図や登記の情報からは分かりません。実際に訪問して家の状況を確認し、写真を撮影します。
(3)現況調査の際に所有者がやること
現況調査では、所有者がやることはほとんどありません。強いて言えば、見られたくないものがあれば事前に片付けておく程度です。
居住者や家の状況について、職員から質問がありますので、質問にはしっかり答えるようにしてください。
4.現況調査後に訪問してくる業者には要注意
裁判所からの調査が完了し、結果がWEBサイトに公開されると、不動産業者が訪問してくることがあります。このような業者には注意が必要です。
(1)自分から営業してくる不動産会社とは関わらないのが無難
物件の情報がWEBサイトに公開されてから訪ねてくる業者の多くは、任意売却を勧めることを目的としています。任意売却自体は競売を回避するための有効な手段ですが、このタイミングで訪問やダイレクトメールなどで営業をしてくる業者には注意が必要です。
競売の手続きが進む中で任意売却を実現するためには、競売の開札期日の前日までに決済を完了する必要があります。現況調査完了後というタイミングでは、期日までにほとんど余裕がないため、短期間で売却することが求められます。
このタイミングで任意売却を勧めてくる業者は、悪徳業者である可能性が高いです。任意売却を検討する場合は、過去の実績を重視してご自身で依頼先を探すことをおすすめします。
(2)入札予定の個人や法人が近隣を調査することも
入札に参加する予定の個人や法人が、家の外観を見に来る、近隣の状況を調査しに来るということもあります。
家を競売にかけられている人にとっては迷惑な行為かもしれませんが、入札に参加する予定の人にとっては購入する家の情報を集めることは大切です。
家を直接訪問して来た際に応じる義務はありませんが、家の外観を眺めるなどの行為を止めることはできません。
5.現況調査を阻止する方法は?
競売の現況調査では、所有者に大きな精神的負担がかかります。場合によっては近隣住人に経済状況を知られる可能性があるなど、プライバシーに関わる問題もあります。
現況調査を回避するのは難しいですが、競売の手続き自体を止めることにより現況調査を阻止することは可能です。
主な方法として以下の2つがあります。
- 現況調査になる前に競売を止める
- 競売を中止させて債務整理に移行する
それぞれの内容について説明します。
(1)現況調査の実施より早く任意売却で売る
債権者に競売を取り下げてもらうことにより、手続きを止めることができます。債権者に競売を取り下げてもらうよう説得するためには「競売以外の方法でより高く売る」ことを条件に交渉しなければなりません。「競売以外の方法」とは任意売却のことです。
現況調査の日程より前に、債権者が競売の手続きを取り下げた場合、競売は中止となります。この場合、裁判所の執行官が現況調査のために訪問してくる、物件の情報が外部に公開されるといったことはありません。
(2)多重債務を負っている場合は個人再生も視野に
多重債務を負っている場合、個人再生の手続きを利用して債務を整理できる場合があります。個人再生が認められた場合、債務を大幅に圧縮することができます。
個人再生には住宅ローンを債務整理の対象から除外して家を残す「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」という制度があります。住宅ローンはそのまま残りますが、他の債務を圧縮できるため「住宅ローンだけなら問題ないが多重債務のせいで返済が困難な状況に陥っている」という場合に有効です。
なお、個人再生の手続きで競売を止めるには、代位弁済から6か月以内に個人再生の申し立てをする必要があります。
参考URL:個人再生手続利用にあたって|裁判所
(3)まずは任意売却の実績が豊富な不動産会社に相談
「競売だけはなんとか回避したい」「近所の人に知られずに売却したい」という場合、まずは任意売却の実績が豊富な不動産会社に相談することをおすすめします。
状況によっては任意売却ではなく債務整理など他の手続きが適していることもあります。しかし、知識のない一般の方が最適な対処法を選ぶことは難しいため、実績を豊富に持つ不動産会社に相談した方が効率的です。
不動産会社を選ぶ際は「WEBサイトなどに具体的な実績が事例つきで公開されているか」「法律事務所と提携しているか」という基準で選んでみてください。債務整理の方が適している場合は、提携している法律事務所を紹介してもらえるため、スムーズです。
6.まとめ
現況調査は、競売に向けた準備です。裁判所に任命された執行官は必要な場合は鍵を開けて立ち入る権限を持っているため、拒否することはできません。
現況調査を阻止するには、現況調査に至る前に競売自体を中止させることが有効です。そのためには、住宅ローン滞納問題に詳しい専門家に相談してみてください。
当社は、住宅ローン滞納問題を専門的に扱う不動産会社です。ご相談者様のご希望や状況を丁寧にお伺いした上で、最適な解決方法をご提案します。「競売を回避したい」「住宅ローンを払えないけれど、今の家に住み続けたい」など、さまざまなご相談に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
当社での相談から解決までの流れはこちらで紹介していますので、参考にしてください。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉