任意売却とは?売却できないケースや注意点についても解説
任意売却とは、金融機関の許可を得て担保物件を売却する方法です。
住宅ローンの支払いが滞れば、最終的には競売にかけられてしまいます。
競売は売却額が安いなどのデメリットがあるので、競売を避けるための解決策として任意売却にたどり着く方は多くいらっしゃいます。
しかし、任意売却は人生で何度も行うことではないため、どのような売却方法かよく知らないという方がほとんどです。
そこで、この記事では「任意売却とはそもそも何なのか」という疑問に対し、詳しくお答えしていきます。
目次
1.任意売却とは
住宅ローンが残っている不動産には担保があるため、本来であればそのまま売却することはできません。
しかし、任意売却では債権者に許可を得て不動産を売却することができ、競売を避けることができます。
任意売却とはどのような売却方法なのか、概要を4つの項目に分けて具体的に解説していきます。
(1)債権者の許可を得て行う担保物件の売却方法の一つ
任意売却を詳しく解説すると下記となります。
- 売買金額より残債務額が上回る
- 不動産に対して担保権を設定している債権者・抵当権者(保証会社等)及び利害関係人(市役所・財務省など)に不動産売却金の配分を行うことによって承認をえることで、抵当権や差押登記等を解除してもらう
- 債務者である売主と第三者の買主との間における売買契約を成立させる
任意売却を図解すると下記です。
任意売却を簡単に言うと下記となります。
- オーバーローンでローンを全額返せない
- 金融機関等のお許しを得る
- 不動産を売却する
この3つの要素が非常に重要です。
住宅ローンや税金の滞納などで不動産が担保になっている場合に、債権者の許可を得て担保物件を売却し、代金で債務を返済することです。
債務の返済が難しいケースで、家を売却することにより、まとまった返済を行うことが主な目的です。
通常、債務の返済が滞ると、債権者は裁判所の競売手続きによって担保物件の現金化を図ります。
しかし、競売は家の所有者にとって重大なデメリットが多く、可能な限り避けたい方法です。そこで、債権者を説得したうえで、競売で売られるより早く、一般市場で物件を売却します。
(2)通常の売却との違い
通常の不動産売却と任意売却の大きな違いの一つが、売却に債権者の許可が必要か否かという点です。
通常の売却では、家を売ることについて債権者の許しは必要ありませんし、売却価格も所有者が自由に決められます。
一方、任意売却では、売却自体もそうですが、売却価格も債権者が決定します。
任意売却には「売却代金をどの債権者にいくら支払うか」をまとめた「配分案」というものが必要で、これを債権者に提示して許可を得る必要があります。
配分案への同意が得られなければ、たとえ売買契約締結後でも、売却中止となることもあります。
任意売却で注意すべき点は、住宅ローンを滞納していない状態では任意売却を進められないということです。
債権者の合意を得られれば任意売却自体はできますが、実際に任意売却を開始するには住宅ローンを滞納して「期限の利益を喪失」し、「一括返済」を求められなければなりません。
なぜならば、オーバーローンになっており、住宅ローンを全額返済できない状態になってからしか任意売却はできないからです。
(3)任意売却は競売と比較してメリットが多い
わざわざ任意売却の準備をせずとも、債権者が競売手続きを取るならそちらで売却すれば良いのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、任意売却は競売と比べてメリットが多く、経済的・精神的ダメージも大きく軽減されます。
【任意売却と競売の違い(一例)】
家を売却した後、スムーズに再出発するためにも、競売より任意売却を検討することをおすすめします。
(4)任意売却の流れ
任意売却の流れは以下のように進むため、おおむね通常の不動産売却と同じです。
- 債務の滞納
- 不動産会社に相談する
- 物件の査定を受ける
- 債権者から任意売却の許可を得る
- 売却活動開始
- 内見(内覧)対応と購入希望者からの申し込み
- 売買契約の締結
- 物件の引き渡しと決済を行う
ただし、競売のタイムリミットを迎えるまでに、上記の工程を全て完了している必要があります。
この点は通常の不動産売却と大きく異なる点だといえます。
2.任意売却を検討する際の注意点
任意売却は、所有者にとって非常にメリットが大きい売却方法です。
ただし、万能ではなく、注意点も存在します。主な注意点について説明します。
(1)任意売却は競売と並行して進む場合が多い
まず、任意売却は競売と並行して進行する場合が多いです。
単に任意売却に着手しただけでは、競売の手続きは止まりません。
物件を担保としている債権者は、原則として競売によって物件を現金化します。
所有者から任意売却の申し出があった場合、応じてくれることも多いですが、任意売却で売れない可能性も考慮し、競売の手続きも継続させます。
期日までに買い手が見つからなければ競売で売却されるため、注意してください。
(2)任意売却完了後債務は残る
勘違いされている方もいらっしゃるようですが、「任意売却完了=債務の完済」ではありません。
そもそも、任意売却は「残債が家の売却価格より大きい場合」に取れる手段です。
そのため、任意売却が終わっても債務は残ります。
残債をどのように処理するかは、別途金融機関との協議が必要です。
3.任意売却ができないケースはある?
任意売却は、住宅が担保になっている状態で、滞納が一定期間続いている場合に検討できます。
ただし、一定の条件のもと、任意売却ができなくなることもあります。
(1)タイムリミットを過ぎると競売で売却される
前述のとおり、競売は任意売却と並行して行なわれますが、競売のタイムリミットを過ぎると、競売の買受人の権利が優先されるため、任意売却はできなくなります。
具体的には、競売の開札期日(結果発表の日)の前日までに、任意売却で引き渡しまで完了させなければなりません。
ただし、開札期日の前日という日は、あくまでギリギリの場合です。
タイムリミットが迫ると、成約を優先して価格を下げなければならなくなる、BIT(不動産競売物件情報サイト)に情報が公開されるなど、デメリットも多くなります。
少しでも早く準備を始めることで、より有利に売却できる可能性が高まります。
(2)債権者から任意売却の同意が得られないと売却できない
先ほども少し触れましたが、任意売却で売却する家は債権者が担保としているため、売却には同意が必要です。
売却活動に着手する際に、任意売却そのものに同意が必要ですし、最終的な売却価格について了承が得られなければ、売ることはできません。
そのため、売却を担当する不動産会社の交渉力は、任意売却成功の鍵を握る大きなポイントです。
(3)所有者と連帯保証人の同意も必要要求する場合が多い
任意売却には連帯保証人の同意を要求する場合が多いです。
また、所有者ご本人以外が相談に来られる場合、所有者の同意を得なければなりません。
離婚した元配偶者が連帯保証人になっている場合や、連帯保証人に任意売却に関する知識がない場合、疑心暗鬼になってしまい、なかなか同意が得られないこともあります。
このような場合、当事者では説得が難しいこともあるため、信頼できる不動産会社に同席してもらい、説得を試みることをおすすめします。
4.任意売却を依頼する不動産会社の選び方
任意売却を一人で進めるのは不可能に近いため、不動産会社に依頼し、各種交渉や売却活動を代行してもらうのが一般的です。
ただし、どの不動産会社を選んでも良いわけではありません。では、具体的にどのような不動産会社に依頼すればよいのでしょうか。
選定基準について説明します。
(1)依頼先選びでは任意売却の実績を重視する
任意売却を依頼する不動産会社を選ぶ際は、過去の実績を必ず確認しましょう。
任意売却を成功させるためには、専門的な知識と経験が必要となるからです。
「配分案の作成」「競売の期日までの売却活動」「債権者の説得」などは、通常の不動産売却では行うことがない作業です。
未経験の不動産会社では難航する可能性が高く、準備が競売の期日に間に合わない可能性があります。
また、実績が豊富な不動産会社なら、交渉がうまくいく確率が高いというメリットもあります。
過去の任意売却で債権者と顔なじみであり、信用を得ていれば、所有者に有利な条件で進められる可能性も高くなります。
依頼先の不動産会社の実績の有無により、任意売却の成功確率は大きく変動します。依頼を決める前に、かならず確認しましょう。
(2)法律の専門家と連携しているかも重要
不動産会社が、法律の専門家と連携しているかどうかも重要なポイントです。
というのも、任意売却は「生活の再スタート」をゴールとした場合、家を売ったら終わるというわけではないからです。
任意売却では債務を完済できないケースがほとんどであり、残債(住宅ローンの残りの債務)をいかに処理するかは、生活再建の可否に直結する重要な要素です。
依頼者に合った方法で残債(住宅ローンの残りの債務)処理を行うには、不動産会社の領分の外である「債務整理の専門知識」が必要となります。
そのため、社内に法律の専門職を抱えていたり、法律事務所と連携したりしている会社でなければ、総合的なサポートを提供するのは難しいのです。
専門家と連携している会社であれば、Webサイトなどに会社の強みとして掲載していることが多いです。
こちらも事前にチェックしてみましょう。
(3)悪徳業者を避けるためのポイント
任意売却の依頼先を検討する上で、注意が必要なのが悪徳業者の存在です。
不動産会社の中には、経済的に困窮している依頼者に対し、法外な金銭を要求する業者も存在します。
以下のような特徴がある場合、悪徳業者の可能性が高いため警戒してください。
【注意が必要な業者の特徴(一例)】
- 仲介手数料以外の費用を請求する
- 引越し代金の捻出を保証して依頼を取り付けようとする
- 着手前から「〇万円で売れます」と断言する
- 聞き取りもそこそこに依頼させようとする
- 専属媒介または専属専任媒介でしか進めようとしない
また、悪徳ではなくても、知識のない業者に依頼してしまうと、売却活動や交渉の貴重な時間を浪費する結果になるかもしれません。
「この業者、なんだかおかしいな」と感じたら、依頼はいったん保留にして、他の業者と比較してみてください。
5.任意売却におけるQ&A
任意売却とはどのようなものかということについて解説してきましたが、まだ疑問や不安に思っている部分が解決されていない方もいるでしょう。
ここでは、任意売却に多い疑問と、その疑問に対する回答をご紹介します。
任意売却の費用はどのくらいですか?
任意売却でかかる費用は、主に売却時に発生する仲介手数料です。
通常の不動産売却と同様に、不動産会社に成功報酬として仲介手数料を支払います。
仲介手数料は、「売却価格×3%+6万円+消費税」で計算します。
その他に、印紙税や抵当権抹消登録費用、滞納中の各種税金、転居費用なども必要になりますが、債権者によって控除が認められることがあります。
売却価格から費用控除として債権者が認めた金額が差し引かれるため、売主が現金を準備する必要は基本的にはありません。
任意売却はどのくらいの期間がかかりますか?
任意売却にかかる期間は、個人差があるものの滞納が始まってから10カ月が目安です。場合によっては1年ほどかかることもあります。
住宅ローンを4カ月ほど滞納してから任意売却の手続きが開始でき、債権者との交渉に数週間~1ヵ月ほどかかります。
債権者の同意を得てから売却か活動を行いますが、売却期間には3~6カ月ほどかかるケースが多いです。
任意売却後の住宅ローン残債はどうなりますか?
任意売却で住宅ローンを返済しても、全てを返済することはできずに残債が発生します。
任意売却後の住宅ローン残債は、一括もしくは分割で支払います。
分割で支払うには債権者との協議が必要ですが、生活を圧迫しない程度の金額での分割で返済していくことが可能です。
任意売却は通常の売却よりも安くなりますか?
任意売却は通常売却と同じ市場で売却活動を行うため、通常の売却に近い価格で売却することができます。
ただし、任意売却は売却期限が限られているため、市場価格より1~2割ほど低くなることが一般的といえます。
6.実際のご相談と解決事例
「一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室」に寄せられた実際の相談内容と解決事例をご紹介します。
(1)現況調査でも任意売却が成功した事例
滞納を6回したところで競売の開始決定の通知がきて、執行官による現況調査まで進んだところで任意売却という方法を知ってご相談いただきました。
競売の開始決定の通知が最後通告というわけではなく、そこからでも任意売却の可能性は残っています。
現況調査が始まってからという期間的には短いものでしたが、ローン残高1700万円のところ実税価格2000万円で解決することができました。
(2)引越し費用の捻出ができた事例
オーバーローン状態だったため、任意売却ができることや、任意売却のデメリットなども説明した上で手続きを進めることになりました。
ローン残高2600万円ある戸建てでしたが、実勢価格2200万円で解決。
引越し費用の捻出もでき、残債に関しては他の債務も多かったので債務整理することで免責されました。
ローンを組んだ当初は問題がなくても比重の大きいローンを組んでいると、ボーナスの減額などで住宅ローンの支払いが厳しくなるケースは珍しくありません。
リスケジュールを受け付けるかどうかは金融機関次第になるため、返済が困難になった場合は私達へご相談ください。
(3)離婚で住まなくなった家を任意売却した実例
実際にはすぐに売却することができ、ローン残高2800万円のところ実勢価格2300万円で解決しました。
離婚によって自宅を売却したいものの住宅ローンを完済できないので売却できないというケースは多いですが、任意売却を選択すれば売却は可能です。
ただし、売却後に残った残債はなくなるわけではないので、じっくり検討することも大切です。
7.私達の任意売却後サポート
私達は任意売却をする売主様に対して、任意売却だけではなく任意売却後のサポートも行っています。
任意売却後にできるサポートには、主に以下の3つがあります。
(1)オーバーローンで残ってしまった債務についてのご提案
自己破産、個人再生、債務整理などの方法がありますが、残債務に応じて弁護士等と相談して決定できます。
住宅ローン以外にも債務があった場合、任意売却をしてもその他の借金の返済と住宅ローンの残債の返済が残るため、生活が苦しくなるというケースもあります。
こうした場合、自己破産や個人再生といった債務整理で残債を免責にすることが可能です。
ただし、債務整理には法的な知識が必要になり、専門家である弁護士のアドバイスが必要といえます。
私達は任意売却後の残債務の状態に応じ、債務整理について弁護士と相談しながら決めていくことが可能です。
(2)親身になって相談してもらえる有効な弁護士をご紹介
債務整理を弁護士に依頼する場合、本来であれば弁護士探しから始めなければなりません。
日常生活では弁護士と関わることは少ないため、弁護士探しに苦戦する方も多いでしょう。
私達は親身になって相談してもらえるような弁護士を紹介します。
また、債務整理に精通した弁護士を紹介できるため、実績や経験といった部分でもご自身で弁護士探しするよりも安心していただけます。
(3)ご引越しの補助や賃貸物件のあっせん
任意売却後の引越しや賃貸物件を探すことなど、その後の生活に不安を抱える方も多いことでしょう。
私達は金融機関との交渉実績も豊富にあるため、引越し補助の交渉によって任意売却後の新生活の準備の負担を軽減するお手伝いをします。
また、任意売却だけではなく一般売却も行っているため、物件に関する広いネットワークを保有しています。
売主様の希望や条件にあった新しい住まい探しをサポートし、あっせんまで行います。
8.まとめ
任意売却は、自宅が競売にかけられようとしている方にとって、大きなメリットがあります。
ただし、通常の売却と比べて専門知識が必要な作業が多いため、一般の不動産会社では手に余る可能性が高いです。
依頼時は、必ず任意売却の専門会社かどうかを確認してください。
私達は、任意売却の実績を豊富に持つプロフェッショナル集団です。
過去に3,500件を超える相談を受けており、他社で失敗した任意売却を成功に導いた実績もあります。
弁護士など法律の専門家と連携しており、売却後の残債処理までサポートさせていただくことも可能です。
「住宅ローンが返せずに競売になりそう」
「裁判所から書類が届いたけれど、どうすればいいかわからない」
という方も、ぜひ私達の無料相談をご利用ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一