定年後に住宅ローンが払えないとどうなる?滞納時の対処法を解説
退職後に経済状況が悪化し、破産に至る「老後破産」という言葉が広く知られるようになりました。中でも、定年後に住宅ローンを払えなくなることによる破産は少なくありません。
なぜこのような事態に陥ってしまうのでしょうか。今回は、定年後に住宅ローンを払えなくなる理由や、滞納時の対処法などを解説します。
目次
1.定年後に住宅ローンが払えなくなる理由
まずは、定年後に住宅ローンを払えなくなる主な理由について説明します。
(1)定年後の賃金が減少する
定年後も仕事を続ける方は少なくありませんが、多くのケースで定年前よりも賃金が減少します。長く働き続けてきた会社に再雇用された場合でも、2~3割程度減ることが多いです。
アルバイトやパートとして他の会社に新たに就労したり、事業を起こしたりする方もいらっしゃいますが、定年前と同レベルの収入を安定して得ることは難しいでしょう。
(2)退職金が想定より少なかった
定年前に退職金の金額をよく確認しておらず、想定より大幅に少ない金額だった、という方も多いようです。また、会社の経営不振等の事情から、退職金の額を減額されてしまうケースも少なくありません。
老後の生活に退職金を当てにするケースは多く、金額が予定より少ないと、経済状況に大きな悪影響を及ぼします。
(3)年金の給付額が足りない
年金の給付額が少なく、生活コストを賄いきれない場合も、住宅ローンの支払いに影響が及ぶことがあります。また、年金不足により生活のために貯金を切り崩した場合も、貯金を住宅ローン返済に充てる予定であれば返済計画が崩れることがあります。
(4) 病気により働けなくなった
大きな病気を患えば、長期入院をして治療に励んでも、以前のようには働けなくなったり、退職を余儀なくされたりすることもあります。その結果、ローンが支払えなくなることもあるでしょう。
少しでも返済しようとアルバイトなどをしても足りず、途方に暮れてしまうこともあるでしょう。
(5) 家族の介護が必要になった
近年増えているのが、親や配偶者の介護のために住宅ローンが払えなくなるというケースです。介護のために仕事を続けられなくなった結果、収入が途絶え、住宅ローンを返済するのが困難になります。介護費用がかさみ、最悪の場合は「介護破産」に陥る場合もあります。
2.住宅ローンを長期間滞納するとどうなるのか
定年後に住宅ローンを払えなくなり、返済を滞納してしまった場合、どのような事が起きるのでしょうか。
(1)自宅が競売で売却される
住宅ローンを長期間に渡り滞納したり、返済の請求を放置したりしていると、最終的には自宅が競売で売却され、他人のものとなってしまいます。これは、住宅ローンの契約時に、金融機関が自宅に抵当権を設定しているためです。住宅ローンの滞納が続いた際、債権者は、担保となった自宅を売却することで、ローン残額の回収を図ります。
競売は、通常の不動産売却と比べ、所有者にとって経済的・精神的ダメージの大きな売却方法です。売却の内容のみを比較した場合でも、大幅に不利な条件で家を手放さなければなりません。
(2)信用情報に遅延情報が記録される
競売まで行かずとも、滞納期間が長くなると、信用情報に遅延情報が記録されます。
信用情報とは、金融機関やクレジットカード会社が登録・閲覧できる個人の金融に関する信用情報のデータベースのことです。このデータベースに事故情報が掲載されることを、俗に「ブラックリスト入り」などといいます。金融事故情報には、自己破産や債務整理の事実のほか、3か月以上の返済遅れである「遅延情報」も含まれます。
事故情報が掲載されると、新たにローンを組む場合やクレジットカードの新規作成の際に、審査に通らなくなるといった悪影響があります。
(3)連帯保証人に請求が届く
返済を滞納した場合、ローン契約時に設定した連帯保証人に請求が届きます。滞納から2~3か月しか経過していない初期の状態でも、連帯保証人に連絡されることは多いため注意が必要です。
「まずは契約者である自分から回収するのが普通では?」と思われるかもしれませんが、ローン契約の連帯保証人は、法律上は主債務者(契約者)とほぼ同等の返済義務を負っています。金融機関が、契約者に支払い能力がないと判断した場合、早期に連帯保証人への請求に切り替わることは少なくありません。
「連帯保証人には迷惑をかけたくない」と思われる場合は早期に対策を検討する必要があります。
3.定年後の住宅ローン返済が厳しい場合の対策
定年後に住宅ローンの返済が厳しくなった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。具体的な対策について説明します。
(1)日々の支出を見直す
まずは、日々の支出を見直し、生活コストを削減できないか検討してみましょう。現在の支出のうち、現状に見合わず過度にコストがかかっている部分が見つかるかもしれません。
【支出の見直しポイント(一例)】
保険 |
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携帯電話 |
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車 |
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ライフライン | 電気やガスは乗り換えで安くなることも |
見直しが可能かどうかは人によって異なりますが、ときには月額コストを1万円以上節約できることもあります。まずは現在の支出を整理し、家計に余分な費用がないか確認してみましょう。
(2)ローン契約中の金融機関に相談する
経済状況が厳しく、どうしても住宅ローンを支払えないという場合、ローンを借り入れている金融機関に相談することができます。
実は、住宅ローンを払えず滞納してしまう方は決して珍しくありません。滞納前や、滞納初期に相談に訪れた人に対しては、金融機関は柔軟に対応してくれることがほとんどです。
一時的にローンの返済を猶予してくれる、月額を抑えた返済計画に変更してくれるなど、負担を軽減し、少しずつ払っていけるよう調整してもらえることもあります。まずは相談してみましょう。
(3)売却を検討する
どうしても返済が難しいのであれば、売却も選択肢の一つとなります。マイホームを手放すことになるため、抵抗を覚えるかもしれませんが、家の売却は老後の資産整理としては一般的な方法です。
例えば、子どもが独立した家庭ではファミリー向けの自宅は広すぎるため、住宅の現金化も兼ねて売却し、子どもと同居する、賃貸住宅に移るなどの選択をするケースもあります。
4.住宅ローン滞納時の4つの売却方法
住宅ローンを滞納して売却を検討する場合、通常売却も含めて4つの売却方法があります。それぞれの方法について具体的に説明します。
(1)残債より売却価格が高い場合は通常売却を検討
ローンの残債よりも売却価格が高い場合、通常の不動産市場での売却を検討してみてください。後述の任意売却とは異なり、金融機関の同意が必要ないため、手軽に実現でき、かつローンを返済しても手元にお金が残ります。自宅も相場で売れるため、条件の良い売却方法といえます。
通常売却を検討する際は、まずは不動産会社の査定を利用し、自宅の売却価格の目安を知るところから始めます。早ければ、情報公開から2か月~3か月程度で売却できます。
(2)オーバーローン状態に検討する任意売却
残債が売却の見込み価格より高いオーバーローン状態の場合、任意売却による売却を目指すことになります。任意売却とは、オーバーローン状態の物件を、債権者など利害関係者の許可を得て一般市場で売却することです。
市場で売却することは通常売却と同じですが、債権者の同意と抵当権の解除が無ければ売却できない点が異なります。また、ほとんどの場合、競売と同時進行するため、競売の期日までに売却が必要です。
任意売却では、債権者の説得や競売の進行を意識した売却など、専門的なノウハウが必要な場面が多いです。そのため、任意売却を実現するためには、任意売却の実績を豊富に持つ不動産会社に媒介を依頼することが重要なポイントとなります。
任意売却の相談先の選び方について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
(3)親族(親子)に売却する親族間売買
家を親族(多くは親子)間で売却する親族間売買も選択肢に入ります。親族間売買の主なメリットは以下の2点です。
- 自宅に住み続けられること
- 自宅が他人の所有物にならないこと
売却価格は、家の購入者の経済状況や金融機関の意向、住宅ローンの貸し付け可能額などによって変化します。そのため、オーバーローンの場合、通常の任意売却と比べて難度は高めです。
また、親族間売買では、金融機関の多くが住宅ローンの融資に消極的な点も問題となるため、借入可能な金融機関をいかに探すかがポイントとなります。
(4)賃貸と売却がセットのリースバック
不動産を売却後、新たな所有者から家を賃借する売却方法を「リースバック」といいます。リースバックでは、売却後も家に住み続けることが可能ですし、親族間売買とは違い、親族や子どもにローンの負担をかけることもありません。
事情があって引っ越しのできない方や、相続対策も考慮した売却方法を検討している方には特にメリットが大きいといえます。
リースバックについて詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
参考記事:リースバックとは?メリットとデメリット、注意点も解説
5.定年後に住宅ローンが払えなくなり「住宅ローン滞納問題相談室」が解決した事例
定年後に住宅ローンが支払えなくなるケースは、決して少なくありません。ここでは、実際に当社に相談いただき解決した事例を紹介します。
(1)退職金を受け取れず住宅ローンを払えなくなった事例
【住宅ローンを支払えなくなった経緯】
Y様は定年退職時のローン残高500万円を退職金で支払おうと考えていましたが、不況の影響で会社から退職金を受け取ることができませんでした。さらにその頃、離婚をしたために貯金が尽き、再就職して何とか収入を得られるようになったものの生活するのに精一杯という状態だったそうです。住宅ローンを支払う余力はなく、やがて滞納するようになりました。
そのうちに債権者から競売手続きを申し立てられてしまい、裁判所から現況調査の通知が届いた段階で慌てて当社に相談にいらっしゃいました。
【当社から提案した解決策:リースバック】
住宅ローンを支払えなくなり、競売手続きが開始した場合、任意売却を試みるのが一般的です。
しかし、Y様は長年住んでいた自宅に住み続けることを強く希望されたため、当社からはリースバックと親子間売買という2つの方法を提案させていただきました。
「家族に迷惑をかけたくない」というご本人の要望と、ローンの残債が少なかったことから、リースバックを選択することになり、現在も変わらずご自宅に住み続けられています。
参考記事:競売の現況調査が行われた後でもリースバックで自宅に住み続けることができた事例
(2)退職金が少なかったために住宅ローンを払えなくなった事例
【住宅ローンを支払えなくなった経緯】
G様は定年時のローン残高2,000万円を退職金で一括払いするつもりでしたが、退職金が想定よりも少なかったために支払いが難しくなってしまいました。定年後の収入は年金だけで、生活するのがやっとという状態になり、ローンの返済を滞納するようになってしまいました。
家を売却すれば返済できるのはわかっていたものの、住み慣れた家を離れがたく、「何とか住み続けられないか」と解決策を探していたところ、「親子間売買」という方法があることを知り、当社へ相談に来られました。
【当社から提案した解決策:親子間売買】
親子間売買をご希望されていたため、当社ではローン審査を通過するためのお手伝いをさせていただきました。親子間売買に対応してもらえる提携先の金融機関とおつなぎし、無事息子さん名義でローンを組むことができました。名義は息子さんになったものの、今も同じ家に住み続けられています。
参考記事:住宅ローンの支払いが困難になったが、親族間売買で住み続けられることができた事例
(3)リタイア後の住宅購入のための住宅ローンが通らなかった事例
【住宅ローンを支払えなくなった経緯】
大阪で自営業をされていましたA様は、リタイア後は関東に住宅を購入し、移り住むつもりだったそうです。しかし、良い物件を見つけて購入しようとしたところ、大阪の自宅の住宅ローンが残っているために、審査を通過できませんでした。売却も考えましたが、息子さんが譲ってほしいと申し出てくれたため、息子さんに売却することにしました。
しかし、銀行に相談しても、親子間売買であるために融資をしてもらえません。そんなときに当社を知り、ご相談にいらしてくださいました。
【当社から提案した解決策:親子間売買】
当社では、A様より電話で問い合わせをいただいた直後より、提携金融機関へ相談し、融資金額を確認してA様にお伝えしました。そのままご依頼をいただき、スムーズに親子間売買を実現させることができました。A様は無事関東の新居に移られ、A様が元々住まわれていた家には息子さんが暮していらっしゃいます。
6.まとめ
定年後、さまざまな理由で収入が減少し、住宅ローンを払えなくなる人は多いです。滞納が始まり、長期間に渡ると最終的には家を競売にかけられることもあります。
まずは、支出の見直しや金融機関への相談など、可能な対処法を試してみてください。それでも返済が難しい場合も、競売以外に検討できる売却方法はあるので、専門家に相談しながらご自身に適した方法を模索してみましょう。
当社は、住宅ローン滞納問題を専門的に扱う不動産会社です。3,000件以上の実績に基づく専門的なノウハウで、売却後の生活再建まで見据え、最適な解決方法をご提案致します。
「定年後に住宅ローンを払えなくなってしまったけれど、今の家に住み続けたい」「競売だけは回避したい」など、さまざまなご相談に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
寺島 達哉
クラッチ不動産株式会社主任。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室相談員。帝塚山大学を卒業後、不動産賃貸仲介会社を経て現在に至る。何らかの事情で住宅ローンの返済が困難になった方にとっての最善の解決(任意売却・親族間売買・リースバック等)に向けて日々奮闘中。
所有資格:任意売却取扱主任者/宅地建物取引士/相続診断士/賃貸不動産経営管理士
監修者: 寺島 達哉